Mikiyoshi1986

修羅のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

修羅(1971年製作の映画)
4.7
4月12日は松本俊夫監督の一周忌に当たります。

長編に関しては寡作ながらもATGにて印象的なアヴァンギャルド作品群を創作し、
映画理論に基づいた革新的映像の追究に情熱を絶やさなかった松本監督。

長編デビューにして最高傑作の呼び名も高い前衛カルト映画『薔薇の葬列』はギリシャ悲劇『オイディプス』がベースとなっていましたが、
長編2作目に当たる本作『修羅』では日本の歌舞伎狂言が題材に。

『東海道四谷怪談』の作者としても知られる狂言作家・四代目鶴屋南北の歌舞伎演目『盟三五大切』を基に、
愛憎と裏切りが交錯する血みどろ復讐劇を大胆映像化!

百両の金を巡り、浪人、芸者、茶屋の使いが人間の所業を痛烈に炙り出す残酷絵巻を披露していきます。
困窮する侍はかつて山中貞雄監督の『人情紙風船』でも描かれていましたが、
本作では『忠臣蔵』の赤穂浪士をモデルとした源五兵衛がその役を担います。
中村嘉葎雄の鬼気迫る形相には終始釘付け。

原作をなぞりながらも1960年代末の物々しい世相を反映させた本作は、
堕落した武士が世俗の罠に嵌まって殺人鬼と化し、はたまた忠誠におもねる義士としての側面も描くことで階級の表裏を強調。
浅ましき人間たちの非業はまさしく修羅の道に通じます。

反復の技法や照明・撮影技術の手腕にもとことん心血が注がれている漆黒時代劇。

凄惨な地獄絵図の中にも松本監督の美学が冴え渡る渾身の傑作です。
Mikiyoshi1986

Mikiyoshi1986