強い

息もできないの強いのレビュー・感想・評価

息もできない(2008年製作の映画)
4.4
いつぞやの記憶の片隅にあった“愛”を疑って手繰り寄せて握り潰す。

悪態以外の言葉を知らず暴力に塗れて生きてきたチンピラのサンフン、期待しない素振りだけは上手くなった女子高生のヨニ。
偶然に出会った二人は互いの似た匂いを嗅ぎ取って、救済でも恋でもない、名前のつかない関係を築いてゆく。

家庭環境、貧困と暴力、人を形作る重要な部分があれもこれも欠落しているが故に強くなり過ぎてしまった二人が、夜の闇に隠れるように寄り添って慟哭するシーンで耐え切れず一緒に泣いた。

どんなに抗おうと抗いきれない暴力の連鎖。
怒りの中でも諦めの中でも「大切にしたい」と手を伸ばしたのに、駆け出したい足は業に掬われて、指先にすら触れないまま砕け散る。
それは同じ世界に生きる父も、母も、姉も、兄も、甥も、友人も、みんなそうだ。皆大切にしたかっただけなのに。

全ての感覚が褪せていく中で「行かなくちゃ」と誰にも伝わらないうわ言を洩らすサンフンを見て、また泣いた。
他者に愛されていたことなんてちゃんと分かるのはこれからだった筈だし、他者の為に必死になりたかったのもこれからだった。
本当はどんな言葉でヨニを紹介したかったのかも、明るい場所で皆で食べるはずだった焼肉の味も、何も解らないまま。
無論、じゃあ生きてさえいればソレが叶ったのか?と言えば、それは分からないけれど。少なからず背負うべきカルマがある。

ラストシーンで胸が張り裂けそうになった。
そこに見た総てが鎖のように繋がって、ヨニの足枷は重くなる。もう一緒に泣けもしない、息もできない。タイトルに還る。

胸糞映画も辛い映画も沢山見てきたつもりだったけれど、久し振りにずっと落ち込んでいる。
でもきっと私はまたこの映画を見返すと思う。
強い

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