ホイットモア大統領

バイオレント・サタデーのホイットモア大統領のレビュー・感想・評価

バイオレント・サタデー(1983年製作の映画)
3.9
ルトガー・ハウアー追悼①
※鑑賞当時は亡くなった直後でした

見てなかった出演作品を見よう!と思い立ち、加えて『ガルシアの首』を見たばかりだったので、まずは同じペキンパー作品である本作をチョイス。

あらすじ:CIAのファセット(ジョン・ハート)に「週末、君ん家で同窓会するんだって?悪いけど盗聴器とカメラを仕掛けさせてくれないかなあ?君のお友達3人がKGBのスパイらしく、1人でいいから転向させたいんだよね。」と、話を持ちかけられたTVキャスターのジョン・タナー(R.ハウアー)。CIA長官の独占取材を条件に、その計画に参加するのだったが…。

提案に乗ったものの良心の呵責から疑心暗鬼となり、柄にもなく憔悴していくハウアーさんと、冷徹な態度でタナーたちを追い詰めていくJ.ハートのW主人公体制。
TV画面を通した指示がバレそうになり、お天気番組のフリをするなど、フフッとなるところもあるが、物語が進むに連れて狂気が滲み出過ぎた結果、ホラーの域に達してしまうハートさんの演技が見もの。

原題は「The Osterman Weekend」。オスターマンとは友人の名前だが、原作未読のため「なぜ “The Tanner Weekend” じゃないのか?」は不明。そもそも主役2人がオランダ人とイギリス人なのも…同名の原作小説は、『ボーン』シリーズで有名なロバート・ラドラムによるもの。
そのオスターマンには『ポルターガイスト』の父親役クレイグ・T・ネルソン。他2人の友人に、デニス・ホッパーとクリス・サランドン。R.ハウアーの妻はメグ・フォスターで、絶対何か起きる雰囲気しかない豪華キャスト陣の探り合いも見どころ。

とりわけ、空手黒帯というだけで素手で人を殺してしまうTVディレクターのオスターマンに、夫が罵られればその相手の顔面を殴り、夫がピンチになればランボーよろしく弓矢やボウガンで果敢に立ち向かうタナー夫人が素敵過ぎる…
アメリカ人に扮したハウアーさんも発音にはかなり気をつけたようで、TVキャスターとして放つ台詞の説得力は凄い。冷戦下におけるメディアや政府の情報操作の恐怖、というテーマもしっかり伝わりました!

ちなみに購入したBlu-rayには未完のディレクターズ・ファースト・カット版と本作のドキュメンタリー収録されていましたが、これがかなり興味深いものでした!

前者は公開版に対してかなり丁寧に描いており、言い換えると異質な部分を深掘りしているため、ホラー/スリラー寄りなテイストに感じました。特にOPの揺れる映像はまるでリンチ作品のようで、これじゃ試写で不評になるのもわかる気がします笑

後者に関しては、当時ペキンパー監督は落ちぶれており(この時ドン・シーゲル作品の第二班監督なんかもやってたという衝撃の事実!)、スタジオはどこも使いたがらなかったとか。そんなわけで本作は、成功目論むインディペンデント系プロデューサーが、同じく復活を目論むペキンパーと手を組みスタートした経緯があり、時間や資金面に加え、彼と共にしてきたスタッフすら使えないという制約があったようです。
しかし、そんな中でもペキンパー監督は制作陣と悉く対立したり、持ち主に許可なくロケ地の家をぶっ壊したりしたらしく、持ち前の反骨精神を遺憾なく発揮(笑)。つまり、彼の作品に登場するキャラクターは、彼自身だったんだなあと認識させられるエピソードが聞けました。

そんなわけで、両者を見てから改めて本編を見ても、諜報戦の映画なので如何せん地味!D.シーゲル監督あたりがエンタメ要素を増やして撮った方が良かったんじゃないか?と思いつつも、今回もしっかりと銃撃戦にスローモーション込みだし、過去作同様、復讐心に取り憑かれる男や、破滅的なアメリカ人を描いており、良くも悪くもペキンパー監督らしい作品だったんだなとも思えました。

あとは、『スパイ大作戦(現ミッション・インポッシブル)』や『燃えよドラゴン』のテーマでお馴染み、ラロ・シフリン先生によるテケテケ奏法とシンセサイザーをフューチャーした70年代刑事ドラマ風テーマ曲がかなりツボ。…なのに本編では1度も流れない!(未完のディレクターズ・カット版ではEDで流れる)
Blu-rayのメニュー画面では流れるし、プロレスはそこまで詳しくないんですが、越中詩郎の入場曲だったらしいんですけど…。まあ単純に作品の雰囲気に合わないからだよねw でも、作中のメロウでジャジーな曲も良かったです。合ってないけど笑

※これを機にハウアー・タグ作りました。