けんたろう

ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還のけんたろうのレビュー・感想・評価

5.0
広大なる大地。聳え立つ山々。其の圧倒的なる空撮からして、もうはや涙が出る。
たゞ、何んなに壮大なる世界が舞台にせられても、矢張りロオド・オブ・ザ・リングである。詰まるところ、描かるゝものが常に人間なんである。其れを強調するかの如くアツプで見せらるゝ彼れらが顔面と、胸を打つ台詞の数々とには、此の上なく心を鷲掴みにせらる。又た其れに伴うて描かるゝ再起の狼煙、決起の号には、細胞レベルで奮ひ立たせらる。

嗚呼、最高の映画である。

成るほど向かふに居るのは、酷く残忍なる敵である。何れだけ勇みよく立ち向かうても、迚も我れらの敵ふ相手ではない。其の悍ましさと相対して得らるゝものなど、最早や恐怖のみである。当然、挫けてしまふことも屹度あらう。疑心に囚はれてしまふことも屹度あらう。だが、其れは今日ぢやない!
成るほど絶望の道である。進んでも進んでも、目の前に広がる荒野は常に地獄である。己が腐りゆく心に挫折してしまふことも屹度あらう。立ち止つてしまふことも屹度あらう。だが、其れは今日ぢやない!
身も心もボロボロに成りて、然し其れでも、決して歩みを止めずに生きつゞく。地を這つてゞも何んとか何んとか進みつゞく。嗚呼、人生。ロオド・オブ・ザ・リングとは、蓋し人生である!
──涙が全く留まらぬ。訪るゝ永訣のときに至つては、最早や嗚咽である。


絶望の最中に在りても、敢然と前へ前へ進みつゞくる強き意志の物語り。縦へ何れほど貧弱でありても、決して歩を緩めずに強く生きんとする姿勢の物語り。断絶を唆かす卑劣で強大なる性と対峙をしても、絶対に其の手を離さぬ、死んでも其の手を離さぬ、尊貴なる友情の──永遠の物語り。

嗚呼、ありがたう友よ。然うして、さらばだ友よ。
成るほど君たちと会ふことは二度とあるまい。けれども、共に過ごした日々は断じて忘れない。君たちの人生を、生活を、幸福を、オイラずつとずつと祈つてるぜ。