垂直落下式サミング

いれずみ突撃隊の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

いれずみ突撃隊(1964年製作の映画)
4.2
大映の『兵隊やくざ』の亜流かと思いきや、制作・公開年はこちらの方が先らしい。「東映はパクる」という先入観。時代劇が下火で新たな路線を模索してる時期の東映で石井輝男監督が手掛けた本作は、混沌とした60年代半ばの、日本がまだまだ野蛮な状況にあった時代の空気を象徴するように、かつての戦争をごく身近なものとする距離感で、世の中の汚い事を直視している。
勝新が演じる大宮一等兵のイメージが強いためか、高倉健さんが似たような役を演じるのをみると、優等生が悪ぶっているような若干の危うさは感じるものの、組織に使い捨てられていく若者に死と悲哀を背負わせることにかけては、東映が十八番のスタイルである。
『昭和残侠伝』『網走番外地』などの代表作で任侠道の象徴化していく前の高倉健のチンピラ役は貴重であるが、彼に乱暴者の記号として「刺青」を与えると、過去の傷のメタファーとして機能してしまうのはミスキャスト。バカ役を演じるには、あれこれ余計なものを背負っていそうで心配になってしまうが、石井輝男監督がペーソスな演出に徹していてそこまで暴れておらず、脇役の配置にも安定感があるため、主役に思い入れずとも気にせずに鑑賞できた。
観客の憎悪を一手に引き受ける悪役に定評のある安部徹。美しく戦い愛に生きる三原葉子。他にも、若々しい津川雅彦と朝丘雪路が共演していて微笑ましい。
慰安婦たちの描きかたについても、その扱いにリアリティが貫かれており、ひとりひとりが悲しみを背負いながらも兵士に守られるだけでなく、それぞれが尊厳をもって戦い、それでいて女の情念めいたものがドロドロしていなくて、あくまで軽快に「戦争に消費される存在」から脱却してみせる。
「靖国神社も金鵄勲章も糞くらえ」という、ネット時代であれば活きのいいネトウヨが釣れそうな予告編テロップに絶句すべし!でも、これがフロントラインの本音だろう。