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そして人生はつづくの針のレビュー・感想・評価

そして人生はつづく(1992年製作の映画)
4.1
何とも変わった感触かつ、変わった在り方の映画でした……。自分はこれと似た印象のものを観たことない気がする。

イランの映画監督アッバス・キアロスタミの代表作『友だちのうちはどこ?』(1987)の5年後に作られた、一風変わった続編。基本的には前作を観てから手をつけたほうがいい作品だと思います。

『友だち』はロケ地となった村に実際に暮らす住人たちを俳優として起用したフィクション映画。主演の男の子がすごく「らしい」演技をしてるんだけど彼も素人だったんですねー。
しかし映画上映後の1990年にイランで大きな地震が起こり、ロケ地となった村(作中の呼び名はコケル)も大きな被害を蒙ります。
本作はその地震を受け、『友だち』の出演者たち、特に主演のアフマドくんの安否を確かめに、キアロスタミの分身たる映画監督とその息子が車でコケル村を訪ねていく、というストーリーになっています。

正直序盤はちょっと退屈だったのですが、作中に登場する「家」について語られるシーンでガバッとはね起きました。うーん、自分的には、この監督にとってはドキュメンタリーとフィクションのあいだに明確な違いはない、もしくはある程度違うことは飲み込んだ上で意図的にそのラインを踏み越えて両者を混淆させることで、どちらとも言い切れない映像作品を作ってるような気がしました。すくなくとも素人の自分が思ってるほど単純な考えで作ってるわけではないんだろうなと(以前観た『クローズ・アップ』もそのうち見返したい)。
そもそも前作が主人公含めてみんな素人のキャストであったがゆえにこういう続編が成立してるのですが、どこまでが作られた映像でどこまでがノンフィクションなのかがちょっと分からない。地震によって瓦礫と化した家々や被災地の渋滞などはそのまま現実を撮りつつ、会話のシーンなどの「物語」の部分は全部作ってる? でもそういう「物語」部分にも前作と同じ素人の役者さんが今度は本人役で登場していて、考えるだにフィクション/ドキュメンタリーを明確に分けることが無意味になってく感じもする……。

その他箇条書きで。
・主人公とその息子が、被災地の方にけっこうズバズバ物を言ったり聞いたりするのでかなりハラハラ。でも今の日本とは時代も環境も違うから一概にいいわるいは言えないような。
・音のノイジーさはどこまで意図的に入れてるのでしょう?
・カメラワークは序盤から一貫しておもしろくて、わざと画角を狭めたり一方からしか写さなかったりすることでおのずと画面に映ってないところに意識を向けさせられるような感じがします。でも同時にこれはドキュメンタリーというよりはフィクション映画的な感触の気もして、それがさらにおもしろいかなと。ときおり挟まるロングショットが特に印象的……。

全体的には、現実とかなり地続きな「作り物」を見せることを通して、むしろ逆説的に現実そのものを写し取ろうとしているような意識を感じました。この映画から立ち上がってくる、被災した人々のたくましさのようなものは、作り物と言えば作り物な気がするんだけどそれを演じているのが現地の人たちだと考えると紛れもない現実でもある気がして……。
あとは終盤に理屈のよく分からない謎の感動があってこれはすごくよかったなー。でもそれをうまく言葉にできない……。
ということで正直よく分かってない感じが強いのであとは保留ということで。『友だち』が好きだった方はついでに覗いてみてもいいかもしれません。
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