Eyesworth

ロリータのEyesworthのレビュー・感想・評価

ロリータ(1962年製作の映画)
4.7
【毒が仕込まれた中年男の純愛映画】

スタンリー・キューブリック監督がウラジミール・ナボコフの「ロリコン(ロリータ・コンプレックス)」の語源にもなったポルノ古典『ロリータ』を原作として映画化した1962年の白黒作品。タイトルの通り、中年男性の未熟な少々への異常性愛がテーマ。

〈あらすじ〉
パリからアメリカにやってきた大学教授のハンバート・ハンバート(ジェームズ・メイスン)は赴任先のビアズリー大での授業が始まるまでの休暇を過ごすたためにニューハンプシャー州の田舎町ラムズデールにて下宿探しを行う。その際に出会った未亡人シャーロット・ヘイズ夫人(シェリー・ウィンタース)の勧めにより彼女の家で下宿することになるが、彼の目当ては庭で出会った彼女の一人娘のロリータ(スー・リオン)であった。シャーロットは下宿人の彼に好意を持ち、猛烈アピールを行っていくが、ハンバートはどこ吹く風と言った感じで視線は常に幼いロリータにあった。やがて彼女と距離を近付くために好意のないシャーロットと結婚し、ロリータを手中に収めることに成功する。しかしある時、彼の偽りの愛を悟ったシャーロットは激昂して外に飛び出し、車に轢かれて死んでしまう。幸か不幸かロリータを独占することに成功したハンバートは大好きな少女とどのように暮らし、その異常な関係はどのような帰結を迎えるのか…?

〈所感〉
終始ハンバートがロリータに対して「俺はこんなにお前を愛し、尽くしてるんだぞ!」と強い自負で迫れば迫るほど、ロリータはその激しい束縛に嫌気がさし、彼の手元から意地でも離れようとする。彼からするとそれは年齢など関係ない真っ当な愛だったのだろうが、我々の視点から見た中年男の歪んだ愛はあまりにも醜い。ただ、ロリータ演じるスー・リオンが現代だとエマ・ワトソンのような大人びた美人で「ロリータ」という言葉の印象とは程遠く、ハンバートの人生を賭けた渾身の鬼気に満ちたアタックも正直共感はできるほどに引き付けられる魅力がある。
この物語の裏の主人公は冒頭に登場した脚本家クレア・クィルティ(ピーター・セラーズ)であり、過去にもハンバートの前に何度か姿を現し、独特な言葉と奇天烈なパーソナリティで周りを振り回す姿が印象強い。そして彼の存在が物語に大きな影を落とすことは言うまでもない。ピーター・セラーズの常人には理解し難いムーブの演技が絶妙に巧かった。演技の中で演技することは並大抵の技ではないだろう。
キューブリックの長編『バリー・リンドン』もそうだが、撮影や美術、音楽に対する監督の並々ならぬこだわりが至る所に見られ、この時代にして視聴者を飽きさせない工夫が多面的に施されていて、面白い脚本に甘えない彼の姿勢に多大なるリスペクトを送りたい。この作品を構成するエレメントが37年後の遺作『アイズ・ワイド・シャット』へと開花したのだと思うと一層感慨深い。
キューブリックが好きな人は勿論、毒にも薬にもならない通俗な恋愛映画に食傷気味の人にもオススメです✨️
Eyesworth

Eyesworth