ストレンジラヴ

ジュリアのストレンジラヴのレビュー・感想・評価

ジュリア(1977年製作の映画)
3.8
「あなたは親友以上だわ。重大な仕事を引き受けてくれた」

ユダヤ系女流作家リリアン・ヘルマンの原作を基に、リリアンと親友ジュリア、そしてハードボイルド作家ダシール・ハメットとの愛がリリアンの回想として語られる。
ジュリア(演:ヴァネッサ・レッドグレーヴ)はリリアン(演:ジェーン・フォンダ)の幼馴染にして親友であり、オックスフォードで医学を修めるほどの才女だった。フロイトに師事するためウィーンに移るが、折しも欧州ではファシズムが台頭し、ジュリアは反ナチスの抵抗運動に身を投じるようになる。
骨太の作風で知られるフレッド・ジンネマン監督にしては意外に?あっさりと描いた感がある。劇中、リリアンはジュリアの頼みで現金5万ドルを輸送するが、この時の抵抗組織の緻密な手筈は007のようなスパイ物を彷彿とさせる緊迫感があり、そこにナチスの不気味さが覆ったベルリンの街並が厚みを加えている。が、裏を返すとそれだけで物語は終わってしまう。ジンネマン監督「らしくない」と言えば「らしくない」。
加えて、どうしても時系列的に腑に落ちない箇所がひとつあった。ウィーンに移ったジュリアは反ナチス抵抗運動のなかで重傷を負う。それも生涯にわたる重傷である。にも関わらず、その後(恐らく2年後と思われるが)リリアンとベルリンで再会した際、ジュリアには1歳になる娘がいたのである。果たしてそんなことが可能なのだろうか?そもそもウィーンで重傷を負った時点で、ジュリアは子供を産める身体ではないと思うのだが...。
調べてみると、どうやらジュリアなる人物は架空の人物らしい。アメリカの精神科医が大戦中にジュリアと同じようなことをしていたようだが、ヘルマンとの面識は全くなかったそうだ。だとすると、どうもフィクションならではの設定の甘さ・矛盾ということなのだろうか?
舞台となる都市が目まぐるしく変わりついていくのに苦労したが、欧州にしか表現できない華やかさと気味の悪さが入り混じった世界観は見事。ジュリアは「リリアンの思い出の中にだけいる女、リリアンが少女だった頃の青春の幻影」なのだろう。