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女系家族のotomisanのレビュー・感想・評価

女系家族(1963年製作の映画)
3.9
 矢島の家は三代続きで養子婿。その婿三代目が亡くなって遺された三姉妹の誰が四代目となるのやら。ところが三代目の隠し女が知れてしかも妊娠4か月。莫大な相続だけでも三姉妹は暴発寸前なのに第四の敵まで現れて、いやそれとも身ふたつの隠し女、三人共通の敵なのか?

 女系で三代百年、ただし大商家の養子婿である。尻に敷かれるために入婿させるわけじゃあない。商売はもちろん御家のこんな事情にも通じて、その家を一層繁盛させる男が望まれるんだが、この婿がその店の番頭からとなると、珍しい話ではないが、昨日までどこかの馬の骨だった使用人が一転旦那で主人。花の家付き娘は下知を受ける側に回ってしまう。これが思いを寄せた相手ならともかく政略結婚とくれば、番頭は腕の振るいどころであっても、家付き娘としてはおもしろくない事この上ない。と、これが三代目の結婚であった。
 そんな様子が露わとなるのが物語の最後。男子を出産した若尾が三代目の遺言状を開示した後、傷心の長女マチ子と次女八千代が共に、歴代当主が額写真で居並ぶなかの母親に思いを注ぐうち、「威張っていても、あの三代目と居てすこしも幸せそうでなくて淋しいお人」と思い返す、そこにおいてである。

 遺産相続と若尾問題で魔女もかくやの所業の浅ましさをみせた彼らだが、そう仕込んだのは結局、あの母を筆頭に女ばかりの跡取りが三代続いたこの女系一家、矢島の家そのものだったかもしれないと感じるのだろう。
 いっぽう、生まれた子が待望の男子であっても家を継ぐのは1983年、それまで三姉妹はどの面下げて生きてゆくのだろうか。てっきり十年は昔の話と思っていたが、海外渡航もプレ自由化の時節らしく三女は気分転換に世界一周にでも行くんだそうで若く身軽なぶん負けても余裕綽々だが、父親の「謀略」に負けたつもりなのか?それは無理もないか。しかし、「敗け」て憂さ晴らしが身について迎えるこれからは三姉妹中いちばん惨めになるだろう。

 それにしてもこの女たちは意地汚くがめついから矢島の家も大きくなれたくらいに自分たちの来歴を、いや彼女らのでは更々なく、当代の番頭と異なり一段と優秀な商人で養子婿である自身の父親の事を思っていたのだろうか?
 こんな性根の女系家族の傍らで日本も世界に開けてゆく。吉野の山林が後生大事だそうだが、輸出大躍進の日本も自由化の嵐は目前、女系百年妖怪の魔物封じの始まりかもしれない。そんななかでの憑き物が落ちたかのようなマチ子の身の退き際が際立って見える。死んだ父親に背中を押されて大店の看板の庇護から離れる決心がようやっと着いたらしい。
 この心境の変化に関してはどうぞ原作をお読みなさいというメディアミックスなんだろうか。欲に眩んでいた眼が慣れてきて見返す自分に何が映るのだろう。それを元手にひとりどこへ何を目指すのだろう。
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