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ファイト・クラブのrensaurusのレビュー・感想・評価

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)
4.7
現代社会は、あらゆるものが記号化され、服装、家具、イデオロギー、肉体、知識、教養に至るまで、あらゆる物が私たちに「本当のあなたになれ」と消費を強いており、もはや我々の自己実現と消費は不可分であり、ボードリヤールの著書『消費社会の神話と構造』にて警告されるように、我々消費社会の主役各々方は遅かれ早かれ疲弊する。

日夜生み出される商品が価値交換され、その様が複雑になればなるほど我々は「本当の私」の物語を求めていき、物語消費の旅は終わらない。

本作は、そんな疲弊を大肯定し、束の間の休息と、疲弊に押し潰された怒りをも発散してくれるオアシスのような作品だ。

やれ仕事が出来る、やれオシャレだ、やれあの家具は貴重だ、やれ最新のパソコンだ、本当は心底どうでも良い気がするのにそのような虚構が我々社会の本質なのだから、生きているのか死んでいるのか分からない。殴り合いをした方が生き物らしいと思うに至るのも最もだ。

そんな逃げ道もやがて組織化され、簡略化され、効率化され、思考を停止する。気がつけば虚構そのものだ。おまけに「本当の自分」探しは、自問自答の様相を呈し、『自己満足』か『病』に行き着くだけだ。

この映画に価値を見出し、感動した私も、物語消費社会の一部であるに変わりないが、それでもこの映画は、あらゆる物語を忘れさせてくれる『情報社会の核シェルター』であるように思えてならない。

さて、今度は我々は、評価社会に突入してきた。誰がより認められるのか、誰にフォロワーが多く続くのか、この新たな競争は、どのようなオアシスを用意するのか。
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