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サイレンサーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

サイレンサー(2005年製作の映画)
3.5
 末期癌に冒された殺し屋のローズ(ヘレン・ミレン)は、フィラデルフィアの見晴らしの良い部屋で、今日も苦しい日々を送っていた。彼女はヘネシーとモルヒネが手放せない危険な生活を送っているが、なかなか眠りにつくことが出来ない。2回り年下でパートナーのマイキー(キューバ・グッディング・Jr)は昼間はボクシングに汗を流しながら、そんな彼女に寄り添う日々を送っていた。殺し屋稼業に就く2人はローズの最期の仕事として、犯罪組織の冷酷なボス、クレイトン(スティーヴン・ドーフ)から妻殺しの依頼を受けるのだった。暗殺決行の日、豪華な屋敷の住人たちを慣れた手捌きでサイレンサー銃で次々に殺めて行く2人だったが、妻ヴィッキー(ヴァネッサ・フェルリト)が破水したのを見るや、初めて殺しを躊躇うのだ。これまで一度も失敗らしい失敗をしてこなかったローズが垣間見た生の誕生の瞬間は、彼女の中の何かを変えて行く。それは彼女が死期を間近に控えたこととも大きく関係しているに違いない。去り行く生と生まれ行く生との美しき交差に特別な感慨を抱くこともないまま、2人は一転してクレイントンの組織に追われる身となってしまう。

 死期を悟った老婆はマフィアの妻のヴィッキーに別人として生きることを忠告する。長かった髪を短く剃り、化粧すら別人に偽りながら彼女はごく普通の母親を目指して身を隠すように暮らすのだ。ローズとマイキーの関係は殺し屋としての相棒だけには留まらず、ある種異様な関係を築いているのだが、そこにはマイキーの幼少時代のトラウマが関係している。次作『プレシャス』同様に暴力的だった親から虐待を受けて育ったマイキーは血縁という名の檻からローズに救い出され、今の姿がある。汚れた家庭を知るマイキーは、夫の抑圧から逃れられないヴィッキーとその息子をまったくの他人事とは思えないのだ。これまで人を数知れず殺めて来た男の手はすっかり汚れていて、神が各人に与える運命さえも歪めて生きて来た傲慢な男は、美しい森の中で命の恩人すら葬り去るのだ。男は愛を知らずに大人になってしまった哀しい人間だが、ヴィッキーのボディガードとして、そして1人息子の義父のような立場を何とか務め上げようとする。その愚直なまでの姿が実を結ぶかと思った矢先に、追手の手が3人に迫るのだ。フェミニストの逆鱗に触れた今作は肌の色を乗り越えた過激な性描写が賛否両論を生んだ問題作だ。マイキーだけに留まらず、闇医者のドン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)とその黒人の恋人(モニーク)さえも歪んだ愛から凶行に走る。類型的なノワール・アクションでありながら、トラウマを抱えた登場人物たちの内面の狂気は静かに伝播して行く。
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