よしまる

悪人のよしまるのレビュー・感想・評価

悪人(2010年製作の映画)
3.2
 「流浪の月」が絶賛公開中の李相日。遅ればせながら予習を兼ねて、傑作と名高い本作を初鑑賞。

 前半、満島ひかりと岡田将生の圧が凄まじい。本作は日本アカデミーの主演男優・女優賞のみならず助演男優・女優賞をも獲得しているが、柄本明と樹木希林はもういいからこの2人にあげて欲しかったと思うほどだった。

 まあ2人とも絵に描いたような悪人。知性のかけらもなく、自分以外なにも見えていない。そんな嫌な人間を嘘くさいところひとつ見せず演じ切れる2人はすごい。良い人よりよほど難しいと思う。

 主役の妻夫木と深津の2人も負けず劣らずの悪人だ。殺人犯に抱かれたい。暇そうなロードサイドの大型紳士服店で働く生真面目な娘、コンビニやファミレスではないところがリアルすぎて萌えるw
 出会い系ってもちろん未体験ゾーンだけれど、こんなウブなお嬢さんが手を出したりするものなんだろうか。そのあたりも、姉の深津を鍵かけて締め出してセックスに励む悪人な妹を置くことで説得力を持たせている。

 ボク自身、年頃の娘を持つ親としてはやはり柄本明と宮崎美子の夫婦が気になる。満島のアレは福岡に出て変貌したのではなく、明らかに家庭環境。出て行くまではろくにかまってやることもせず、歪に育ててしまったのだろう。周りの友人に悪人が見当たらないことからもわかる。

 妻夫木の家庭も酷いw 余貴美子の悪人ぶりが素晴らしく、祖母のほうも樹木希林効果で危うく見誤りそうにはなるけれど、隠れて捨てられた母に小遣いせがんでるところを見ると決して慕われていたわけではなさそうだ。変なモノ買わされているところも同情こそすれ、「出来た人」とは思えない。少なくとも厳しく育てるということを知らないがゆえに悪人を生んでしまっているように見えた。

 まあそんなわけで、田舎で燻っている若者たちの焦燥を鮮やかに描いた前半のヒリヒリした感じを楽しみながらその行方を固唾を飲んで見守っていたのだけれど。

 出てくる人がことごとく悪人だらけなので、これは人間の業の深さを描き、善と悪の境目を考えさせてくれるのかと思いきや!
 柄本明が急に「人間というのは…」と、ボヤキ説教を始める。まるでそれに促されるかのように、妻夫木と深津も自分語りを始める。
 悪人の中の悪人、岡田将生もやり返すのかと思えば急にオッサンに怖気付いてがっかり。
 かくまった深津もずいぶん罪深いはずなのだけれど、発見時の状況が運良く味方したのか、しれっと日常を取り戻していいはずがない。

 なんだかせっかくストイックに人間の中に潜む悪を抉り出し、悪人とは何か?を突きつけてくれていたのに、後半は凡庸なメロドラマ、あるいは安っぽい人間ドラマに着地してしまう。

 原作・脚本の吉田修一の小説は読んだことがなく、映画も「横道世之介」しか見たことないけれど、なにがどうしたらこんな残念な筋立てになってしまうのか、これではただいろんな悪人を並べた展覧会にしかなっていない。
 ある意味タイトルの「悪人伝」がピッタリな内容だったと言えるのかもしれない。

 ん、タイトル違う?w