海

愛しきソナの海のレビュー・感想・評価

愛しきソナ(2009年製作の映画)
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はじめての深い悲しみは、家族のもとで起きたはずなのだから、さいごの深い悲しみも、家族のもとで起きるのかもしれないとおもう。けれどどんな苦痛も、わたしがあなたを愛しているからうまれるのだということを、忘れずに生きていきたいと強くおもった日だった。いままでの人生で、家族とは何かということをずっと考えてきたし、その狭く近い関係の中でわたしに与えられたわたしという存在と、わたしはずっと戦ってきたような気がする。いのちが炎だとすれば、それが尽きるまでの時間を、家の中を照らすことに使い切ろうとするひとがいるのを知っている。そういうひとの、そういう愛に触れるとき、わたしは悲しいほど安心する。となりを見れば大好きなひとがわたしを見つめていて、そのひとつ向こうの席には関わりたくない人がいる、そのずっと向こうには、わたしがいつかとなりにいるこのひとよりも愛することになるひとがいるのかもしれない、この広すぎる世界の中に集まった小さな世界の数をかぞえてみるとき、とてもさみしいし、とてもこわくなる。うつくしいものたちが永遠で、愛するひとたちが死ななくて、ひろいあの世界が、わたしたちの狭いこの世界を、いつでも大切に重要にあつかってくれたなら、わたしはもう死ぬまで笑って生きていけるんだろうか。頻繁に起こる停電で暗闇に包まれている部屋の中に、ひびくいくつかの冗談と笑い声、うつくしく育ってきた子どもたち、そのとき、すべてがとても豊かに見えた。これ以上なにもないだろうと思えるような瞬間だった。どれだけ書いてもどれだけ撮っても届かない人は大勢いる。そんな世界で生きて死んでいく。わたしには、そんな世界のなにもかもが、虚しすぎて醜すぎると感じるときがある。それでもなお光っていてずっとずっと背中を見せてくれるひとのことを知っている、わたしもだれかにとってそんなひとでありたい。いつのまにか、羽でも生えたように軽いあしどりで、あなたは向かう、わたしたちの望んだ幸福のもとへ向かう。愛するひとのために祈る、あいしたいひとのためだけに祈る、あなたが笑えるように、あなたが傷つかないように、どんなに悲しいことがあってもまたここへ戻ってこられるようにと
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