りょう

21グラムのりょうのレビュー・感想・評価

21グラム(2003年製作の映画)
4.8
 ちょうど20年前に劇場で観たときは、主に前半の映像の時間軸がぐちゃぐちゃで、ものすごく混乱しました。ただ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の1作目である「アモーレス・ぺロス」と一緒で、コテコテの映像の熱量が半端ないので、妙にひき込まれて心地よい疲労感がありました。
 2~3回観ると、クリストファー・ノーラン監督のように巧妙な時間軸の操作ではなく、メインのストーリーのところどころに予知夢のような未来の映像が挿入されていることが理解できます。フラッシュフォワードの技法というわけではなく、監督の意図は別なところにある印象です。
 数年ぶりに観ましたが、その間に登場人物と似たような経験があったので、とりわけポールとクリスティーナの関係性がさらに共感できてしまい、精神的に“もっていかれそう”な状態になりました。
 ナオミ・ワッツは、2001年の「マルホランド・ドライブ」(ちょっと理解できないまま放置している作品)でファンになりましたが、この作品での魅力がダダ漏れです。クリスティーナの境遇は暗闇に満ちた側面ばかりだし、この作品そのものが登場人物を美しく撮ろうという意図を感じられませんが、彼女にはそれも通用しない何かがあります。
 この監督は、1作目も2006年の「バベル」でもそうでしたが、それまで接点のなかった3つの社会的な空間が何かのきっかけで結びつき、そこにいた不運な登場人物たちが不協和音を奏でるような物語が特徴的です。ポジティブな相乗効果ではなく、ネガティブな干渉につながる人間関係は、この作品では神の意思だったり、心臓移植による魂の“やどり”や承継だったり…。3作品とも、少しだけ救われるエンディングが用意されていますが、ねっとり引きずる後味悪さは嫌いになれません。
 少し難解で過小評価されていますが、「マルホランド・ドライブ」のように1回観ただけで放置するのはもったいない秀作です。
りょう

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