レオピン

悪魔が来りて笛を吹くのレオピンのレビュー・感想・評価

悪魔が来りて笛を吹く(1979年製作の映画)
3.8
美禰子さーん 美禰子さん美禰子さん美禰子さん あなた大変な発見をなさいましたね!

昔VHSレンタルで観たはずなのにほとんど忘れている。若い西田敏行の魅力を確認するための作品。いやよかったです。
舞台は47年だが、映画はそろそろ80年代。高度成長はとっくに終わりお洒落 諧謔の時代。ネタが求められ、何よりもテレがない人間は見向きもされない。時代はショーケン、優作からシャイネスのある西田や武田に移ろうとしていた。(誰かこの頃の西田敏行と武田鉄矢をテーマで新書とか書かないかな)

あの世の中に抗議するような憂いをたたえた目、そして笑顔に隠れたひたむきさと頑健な身体。こういった役者が呪われた血族の話とどう噛みあうか。まったく勝てない 打ちのめされる 敵は究極の理不尽だ。でもそこから飛び立とうともがく者がいる 羽をバタつかせ何度も失敗する者がいる ここに当時青春を撮らせたらこの人以外にいない斉藤監督ならではの金田一が産まれた。

導入は帝銀事件そっくりの銀行強盗事件から。そして太宰治『斜陽』のような元子爵の一族。椿家の邸宅は東映撮影所に建造された豪華セットでかなり見応え。中盤は六本木の邸宅を出て須磨、淡路、そして最後は鎌倉の砂浜へと。

この金田一 女優陣がすごくいい。
ばあやのお信乃さんの原知佐子 もう登場シーンからして面白い。花から画面に入ってくる。
女中お種の二木てるみ メイドさん 見てはいけませんと美禰子に向かって涙をうかべる。
椿あき子(「あき」の字は「火」へんに「禾」)の鰐淵晴子 お人形さんのような顔をした色情症。最後辺りのカットが楳図かずおの絵に非常に似ていた。

新宮華子の村松英子 夫が殺されて満面の笑み 隣りの菊江がドン引き。利彦の殺害シーンでドシャ降りの雨の中を傘さして温室に入るシーン。着物の美しさにハッとした。
美禰子役の斉藤とも子は若鳥のかわいさ。旅館で涙にくれる姿にもらい泣き

東宝版のようなはっきりコメディリリーフと呼べる人物はいなかったが、しいてあげれば菊江さんの池波志乃。このキャラ大好き。前半は彼女のおかげで観れた。原作は言行に似つかわしくない古風な価値観の持ち主で、戦死した恋人と出征前に「心中立て」したせいで小指が欠けている。だが美禰子に教わりタイプライターを身につけた。事件に全く無関係だったのにこんな情報だけで好きになる。きっと彼女の観察眼はミス・マープルに並ぶ。この人のスピンオフとかないかな。あんまり志乃志乃いってるとアキラに怒られるからやめておこう あらまたおじゃがー 

ちょっと第二の殺人まで時間がかかりすぎたせいでミステリー作品としての集中を欠く。大体外連味がない。東宝金田一は死体発見シーンでドギャーンとかゴゴゴゴゴって擬音が聞こえてくるようだがこちらはそれは全くといってなかった。

土台本格推理を映画に落とし込むというのは相性が悪い。密室トリックを暴くところなどはやはり無理がある。そもそも偶発的な殺人で密室自体もたまたま出来たもの。フルートのトリックは丸ごと割愛。共犯者である飯尾のところはかなり不親切。東太郎と飯尾の関係もよく分からず天銀堂事件についての真相は何やら分からない。

調査に訪れた淡路島で妙海という尼と子爵一族との関わりをつきとめた金田一は犯人の目星をつける。異母兄妹の治雄と小夜子、異父姉妹としての小夜子と美禰子。その彼らが一つの邸で暮らしている。もはや飲まなきゃやってられなかったが、それでも依頼人の美禰子、また犯人をも守るためにどうすればいいか。

謎はすべて解けたといって大広間に集め一件落着というわけにはいかない。謎が解けてからが探偵の仕事。探偵にはカウンセラーとしての役割も求められる。終盤の撮影は心中モノとして観ても優れていた。

罪を犯さざるを得なかった人、傷ついた人へ同じひたむきさで相対する
最後に彼のついた嘘 罪を憎んで人を憎まず
全てを受け止め 何も言わずに去っていく

親も家も姉妹も、みな失ったところから始まる美禰子の人生
新時代の世に彼女は、福原で会ったお玉さんのように、逞しく生きていかざるをえない。
自らの青年期と訣別するかのように、おそらくもう会うことのない金田一の背中にいつまでもいつまでも叫び続ける。
いやよかった。これは金田一シリーズのカリオストロといってもいい青春ヒーローの傑作です。


⇒音楽:山本邦山 今井裕
⇒テーマ曲:黄金のフルート
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