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ビルとテッドの大冒険の南のレビュー・感想・評価

ビルとテッドの大冒険(1989年製作の映画)
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若きキアヌが主演を務めた時空冒険ファンタジーコメディ。

「もしも歴史上の偉人と会えたらば」

という、夢に溢れたアイデア自体は『神曲』の昔からありますが、

主人公である劣等生ビルとテッドの場合は、会う目的が

「落第を防ぐために歴史のレポートでいい点を取りたいから」

というのが少年らしくて可愛いですね。

無邪気な2人の主人公たちに連れられ、電話ボックス型のタイムマシンで80年代のアメリカにやってきた

ナポレオン・ボナパルト
ソクラテス
ビリー・ザ・キッド
フロイト
ベートーベン
ジャンヌ・ダルク
リンカーン大統領
チンギス・ハン

などソーソーたる有名人たち。

彼らが遊園地、ショッピングモール、ボウリング場など現代社会で起こすドタバタ劇が見どころの中心となっています。

こういう、一般に

「手の届かない存在」
「崇高な存在」

として受け取られている歴史上の人物たちのイメージを、

現代ふうの

「手が届く存在」
「親しみやすい存在」

として再構築する見せ方。

これは日本にも昔からある方法で、「やつし」と呼ばれます。

有名な例は鈴木晴信の浮世絵など。

今作の場合

ジャンヌ・ダルクはエアロビで踊りまくり、

ビリー・ザ・キッドは女の子をナンパし、

フロイトは取り調べの警察官を相手に精神分析を試み、

ベートーベンは楽器屋のシンセサイザーで激テクを見せつける。

個人的に好きなのはウォータースライダーに興じるナポレオンです。

ウォータースライダーは『テルマエ・ロマエ』でローマのハドリアヌス帝が何度も滑っていたのも印象的でした。

現代文明にカルチャーギャップを感じる歴史上の偉人を演出する定番ツールと言えるかも知れません。

見た目もダイナミックで楽しいしね。

こうした

「情報を自分にとってなじみのある範囲まで引き寄せる」

という方法は、教養を身に着けるにおいて本当に大事なスタンスだと思うんですよ。

物事に興味が湧かない原因は、ひとえにそれを「自分には遠すぎて関係ないもの」と判断してしまうから。

ビルとテッドも始めは「落第しないために仕方なく」歴史の教科書をめくっていました。

それが歴史上の人物と直に会い、友達になることで、「自分の手の届く場所まで存在を引き寄せられた」からこそ、発表会がうまくいったわけです。

学校で良い成績を取るという目的に限らず、昔の出来事や人物を深く知り学ぶことは、誰にとっても有意義なもの。

だから、ビルとテッドに習って過去の偉人たちと「友達になる」。

歴史がニガテな子供も大人も、そんな気持ちで昔の出来事を扱った本や作品に親しめば、いっそう生きるのが楽しくなるかも知れませんね。

類似作品としては、

■オーウェン・ウィルソンが1920年代、”狂乱の時代”のパリにタイムスリップしてダリやヘミングウェイなどの有名人と出会う『ミッドナイト・イン・パリ』

■織田信長、スキピオ、安倍晴明など、別々の時代と場所を生きた偉人たちが一同に会して戦うアクション漫画&アニメ『ドリフターズ』

■世界の名高い文学作品の登場人物が大集合して冒険を繰り広げる『リーグ・オブ・レジェンド』

などが挙げられます。

ゲームの『クロノトリガー』も近いワクワク感がありますね。

また、登場人物たちのドタバタや頑張りが「発表会」という形で結実するカタルシスは

『天使にラブソングを』
『スクール・オブ・ロック』

などにも通じます。

こちらもウキウキ楽しくてオススメ!
南