TaiRa

イースタン・プロミスのTaiRaのレビュー・感想・評価

イースタン・プロミス(2007年製作の映画)
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十数年ぶりに再見。おそらくロシア情勢を受けての特集上映。わざわざ35mmで。

クローネンバーグとしては一番分かりやすい作品。正統派ヤクザ映画になっているし、物語を追うだけなら難解な点はゼロ。ロンドンで暗躍するロシアン・マフィアとミステリアスな存在のヴィゴをハードボイルドに描く。ロシアを取り巻く社会情勢なんかも隠喩されてて、ロシアン・マフィアの人身売買(=イースタン・プロミス)によって蹂躙されるウクライナやジョージアの少女たちはそのものズバリだったりする。加えてチェチェン人との抗争になったりもするし。プーチン政権(2期目)が終わる直前の風刺でもあったなと。撮影時のロンドンで例のリトビネンコ暗殺があったというから面白い。ボスがあからさまなホモフォビアなのもプーチン的な立ち振る舞い。その息子をクローゼットゲイとして描く皮肉。無茶苦茶やってるバカ息子だったヴァンサン・カッセルが段々と切なく見えて来る。アメリカ人のヴィゴがあの役を演じる意味も込めてそう。結末がない、というか先延ばしされるのも現在進行系の話だからという感じもする。現実には、この後の方がより暴力の支配がエスカレートして行く訳だが。無神論者のクローネンバーグがわざわざクリスマスに生まれた子供を象徴的な存在として描くのも面白い。父親は神の様に振る舞うレイピストというのも辛辣。改めてサウナでのフルチン格闘は素晴らしかった。映画史における風呂場急襲場面の基準を更新したと思う。
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