なべ

イースタン・プロミスのなべのレビュー・感想・評価

イースタン・プロミス(2007年製作の映画)
3.0
 そういうことではないのよ、もっと、そうもっと変態成分が欲しいの。これではクローネンバーグが撮る意味がない。クローネンバーグ味が足りない。
 いや、他の監督の作品ならそれなりにおもしろいと思う。でもクローネンバーグが撮ってるとなれば、こちらも期待するわけさ。ギトギトヌラヌラを。なのにきちんとしたハードボイルドな話を普通にするから。
 そりゃヴィゴ・モーテンセンがフリチンで闘う全裸の肉弾戦祭はハラハラしたよ。首をかき切るところではいい血が流れたしね。けど、それっぽっちの暴力描写じゃ満足できない。
 だいたい予備知識なく見始めたもんだから、これがどこの国の話なのかわからなくて、え、ここはロシア? 東欧?ってなったよ。トラファルガー病院って名前が出てきてやっとああロンドンかってわかったくらい。
 話は身元不明の未成年妊婦の死と、彼女の日記を巡るミステリー。日記に記された東欧女性を娼婦として人身売買する契約がタイトルの由来。助産師が遺児の身元を知ろうと日記を翻訳し始めたもんだから、ロシアンマフィアが証拠隠滅に動き出すってシナリオ。
 実在したロシアンマフィアがモデルらしく、レストランを営んでるボスのディテールが妙に生々しい。ヴィゴ・モーテンセンの役づくり(入念なリサーチをしたらしい)や、全身に入る履歴書のようなタトゥが暴力のリアリティを高めてる。
 ボスの息子がゲイであることを隠して男らしく振る舞おうとしたり、実は当局の捜査官が組織に潜り込んでいたりと、脚本もそれなりに練られているのだが、クローネンバーグのアクの強い個性や匂い立つセンスがなくてなんかフツー。
 全体的に渋くて、貶すところはないんだけど、褒めたい気にもなれない2007年産のクローネンバーグ作品でした。
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