大道幸之丞

赤ちゃんよ永遠に SFロボットベイビーポリスの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

原題は「Z.P.G」
半世紀近くも前の作品だが、これは今の時代に観ると、別な示唆を感じて面白い。突飛なストーリーは現在にはないものだ。予算をかけてリメイクしてもらいたい作品だ。

「Z.P.G.」は「ZERO POPULATION GROWTH」(人口増加率ゼロ)の意味。内容のまんま。イギリス作品なので多分にアイロニーが含まれているのか。

ポスターのビジュアルも、内容が深刻なのに反してコミカルなのが面白い。ヒッピー文化の香りがある。当時は「喜劇王チャップリンの娘が出演している」とも話題になったようだ。

邦題は「赤ちゃんよ永遠に SFロボットベイビーポリス」と長め。

——1970年代に日本人が「高度成長期」と呼ぶ時代、世界でも大量生産・大量消費の「飽食の時代」を迎えていた。しかし一方で東西冷戦は依然引き続き、いつ核攻撃で世界が滅んでもおかしくない──という相反する世相の中、SF世界も「近未来デストピア」と呼ばれる作品が同時期に出始めていた。

「ソイレント・グリーン」や本作がその先鞭をつけたと言えるが「ソイレント〜」はアメリカ制作で、本作はイギリスの制作ながら、根底の問題意識は似ており、どちらも未来は人口増で食料不足に陥る。工業の過剰発展で光化学スモッグが蔓延している。

前者が老人を間引き解決を図り、本作では出産禁止で解決を図ろうとしている違いがある。

同時期の公開作品「猿の惑星」も基盤になる危機感は一緒だったはずだ。

時代設定はおそらくは21世紀と思われる。ブレードランナーの原作フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは〜」も動物が死滅後の世界だが、これも1968年と、やはり同時期であり、世界各国の問題意識が似通っていたと言うことだろう。

面白いのはコンピューターはあってもインターネットは想像すらされていない時代なので、市街への告知は飛行船によって行われる。この点は「ブレードランナー」と同様。そして極度な大気汚染のために外出時には皆一様にニットっぽいタイトでスタイリッシュな防護服に防護マスクを装着している。

ある日、広報飛行船から「政府が検討に検討を重ねた結果、ただいまより30年は出産禁止、違反したものは処刑」と告知される。処刑は「処刑広場」と呼ばれる特定の場所に大型チェンバーをぶら下げた飛行機がやってきて、犯行者は子ども共々チェンバーに閉じ込められ窒息死させられ、多分に「見せしめ要素」の強い趣向となっている。

食料不足の時代なので、隠れて出産したものを密告すると、褒美として食料配給券がもらえるのでお互いを監視しあっている。これはまるで旧共産国のようだ。

さて、出産禁止にする代わりに精巧なアンドロイド赤ん坊を政府は推奨している。胎児がかかる疾患は一通りかかるし、引渡し時にデータをインプットしてくれ、親の名前も呼ぶ高性能モデルだ。

また、どの家庭の洗面所にも性行為をしたあとに「堕胎装置」があり、うっかり妊娠しても対応できるようになっている。

主人公はラス・マクニール(オリヴァー・リード)とキャロル・マクニール(ジェラルディン・チャップリン)夫婦。子どものアンドロイドを観に行くが、
その人工的すぎる佇まいにキャロルは強い嫌悪を抱き、むしろ危険を承知で出産を決意するのだった。

地下の老朽化したシェルターで自家出産に成功したマクニール夫婦だったが、ほどなくアンドロイドベイビーで我慢している隣人エドナ夫婦に見つかってしまう。

すると夫婦は「黙っていてやる代わりに子どもを抱かせろ」と脅迫してくる。ここいらあたりは皆が赤ん坊をまるで宝石のように大切に扱っている。

しかし挙げ句数日後には「共同育児にしよう」と次第に図々しくなる。

マクニール夫妻はその態度に呆れながら一顧だにせず。万が一逮捕されても死刑執行チェンバーから脱出逃亡可能な策を練る。

一方、エドナ夫婦も密告を脅迫材料にしつつも子どもが抱けなくなる恐怖から葛藤があるが、ついには密告に走る。

マクニール夫婦に追手が迫り、やがて捕らえられ、チェンバーで気密状態にされるも、事前準備をしていたボートで海へ逃亡。しかし漂着した島には核実験場の看板が表示されているのであった。