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ミルクのodyssのレビュー・感想・評価

ミルク(2008年製作の映画)
3.5
【それなりの一品だが】

(以下は14年前にロードショウ鑑賞直後某映画サイトに投稿したレビューです。某サイトは今は消滅していますので、ここでしか読めません。時間の経過を考慮の上でご一読下さい。)

偶然、今朝の新聞を読んでいたら、アメリカのミス・コンテストで本命と思われていた候補者が「結婚は男女間ですべきもの」と発言したせいで「偏見」の持ち主と思われたためか(どうか断言はできないけど)準ミスにとどまった、という記事が載っていた。(ミスコンでは、美貌や体型だけでなく、知性や教養も問われる。映画『デンジャラス・ビューティ』を参照。)

今なら、同性愛者だからといって職を奪われるのは不当だということはアメリカでもほぼ通念になっている。だけど同性愛者同士の「結婚」を認めるかどうかとなると、まだまだ合意が形成されているとは言えないだろう。私もどちらかというと懐疑派だ。本人同士の納得ずくの「同棲」でいいじゃないか、と思ってしまう。

振り返ってみると、19世紀だとか戦前だとかならともかく、公民権運動がそれなりの成果を上げた1970年代にもなって同性愛だからという理由だけで職を奪われるような国だったアメリカは、キリスト教倫理が不当に強い国だったのだな、と思う。日本だったらそこまでいかないだろう。私はしたがってこの映画を、偏見の強い国であるからこそゲイも大声で発言をせざるを得なかったのだと思いながら見た。そういう前提で見れば、ミルク(こんな姓があるんですね)の闘いもそれなりに説得力がある。

ただしゲイをどこまで認めるかは、同性同士の結婚を認めるかどうかがそうであるように厄介な問題だ。もし同性同士の結婚を認めるとすると、一夫多妻(または一妻多夫)だっていいじゃないか、複数の男と複数の女同士の同棲でもいいじゃないか、ということになってしまう。この映画は、ゲイだからといって職を奪われてはならないという、現在では一般的に認められているところに限定して作品化がなされたからこそ、それなりの一品になったと言えるだろう。

あと、ミルクが市政委員に選ばれたあとの政治活動の描写は、やや物足りない。ここは映画の限界で、多数のゲイ(およびそのシンパ)が集まってデモをするといった場面は迫力があるが、細かい政治的交渉となるとどうしても大ざっぱになってしまう。ミルクと対立していた委員にも彼なりの事情があったはずで、その辺をもっと細かく描いていれば説得力が増したのではないか。

パンフを買ってみたけれど、この点についての解説はほとんどなく、「映画の内容をなぞるだけしか能のない評論家の文章なんか載せるなよ、700円取ってるんだから」と言いたくなった。
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