荒野の狼

長崎の鐘の荒野の狼のレビュー・感想・評価

長崎の鐘(1950年製作の映画)
5.0
長崎で被爆した永井隆博士の原作「長崎の鐘」の1950年の映画化作品。永井博士の放射線医師としての生き様、当時の長崎のキリスト教徒の独特な信仰、キリスト教の信条の実例をもった紹介(医者は身体に不調を持った人のためにあるように、宗教はこころに癒しを要する罪びとにこそ必要、善行は隠れて行いなさいなど)などが十分に描かれている94分。また、藤山一郎の大ヒット曲「長崎の鐘」は本作の内容を反映しており涙を誘う。
この映画を語るとき、作成年度は次の点を考慮すると重要。1)初の原爆を扱った邦画、2)永井博士は映画公開の一年後に逝去されているので、永井博士の存命中、3)1952年のサンフランシスコ講和条約以前の映画なので日本は占領下でGHQによる言論統制下。このような状況下で、史実では、映画以上に悲愴であった緑夫人とのエピソードや博士自身の被爆による大怪我(危篤に陥った)などは描かれていないが、当時、まだ原爆の体験が新鮮なうちに作られて公開されたという事実だけでも、この映画自体が被爆の歴史を語るときに外せないほどの重要性を持っているといえる。なかでも本作のラスト近くで映される当時まだ残存していた浦上天主堂の遺構の映像は貴重(遺構は保存されず1958年に撤去)。
反核を真正面から語れない状況で前半に津島恵子演じる看護婦の永井博士に対する片思いを挿入することで、恋愛ドラマの要素が入った。一見、無理に挿入したかのようなこのエピソードをラストに見事に生かすように仕上げた制作陣は高く評価できる。被爆によって家族を失った子供たちが、実際にまだ多かった当時、本作で母を失った永井博士の娘の寂しい小学校の入学式に、津島のとった行動と博士の返答が「歴史」では時に語りきれない人の愛情が描かれ感動的。
妻みどりを演じたのは月丘夢路で、広島県出身。1953年の広島原爆を描いた名作「ひろしま」では、被曝する教師役をノーギャラで演じた。
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