幌舞さば緒

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマーの幌舞さば緒のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

「ダーリンと、お母様やお父様やテンちゃんや、終太郎やメガネさんたちと、ずーっとずーっと楽しく暮らしていきたいっちゃ。それがウチの夢だっちゃ」とラムちゃんは言う。高望みはせず今現在、普段から一緒にいるみんなと過ごす楽しい毎日がいつまでも続いていくことが彼女の理想。願いが叶ったかのような世界の中で楽しく生活し続けている個の日常を〝壊す〟〝終わらせる〟〝変える〟ということはどういうことなのか…。日常系のコメディアニメからヘビーなメッセージを受け取り、最後は視聴してる自分もラムの電撃を食らったかのような感覚。そして、ウラシマ効果のような表現を寓話的に扱うユーモア…とにかく脚本が素晴らしい。どの分野でも〝目を背けずに向き合う〟ということは並大抵のことじゃない。いざ、更なる現実へ。


台詞メモ

「私もうダメ。毎晩毎晩バカ騒ぎ、挙げ句の果てが徹夜で後始末でしょ。年頃の娘が連日泊まりこみだなんてお母さん電話でカンカンよ。もうイヤ!」「そお?毎日キャンプしてるみたいでウチ楽しっちゃ」「宇宙人と違って生身の人間にはこたえるの!大体なんで私が付き合わなきゃいけないワケ?委員でもないのにさあ」「なんでだっちゃ?」「それはね、つまり、ある人が、ある人を気にして残ってるんで、私としては、そのある人が気になるから残ってるワケよ。ただ、そのある人が気にしてるある人は、そのコトに全然気づいてないワケ。これって分かる?」「全然わからんっちゃ」「でしょうねぇ。だから疲れるのよ闘志がわかなくって…ホント辛いわあ」「笑…いやスマンスマン。しかし、お主らを見てると飽きんわ」「ねえ、いつか聞いてみようと思ってたんだけど、ホントに何が良いわけ?あの、あたる君の。他ならぬ、この私がそう思うわけよ。だってあれって本当に男そのものよ。いい加減で、怠け者で、いやしくて、女好きで、淫乱で、浮気性で、エゴイストで、そりゃ確かに善人ではあるけど」「終太郎だって大して変わらんっちゃ」「少なくとも顔がいいわ。この差は大きいわよ」「全く近頃の若い娘は」「あら、だってそうでしょ。ツバメさんだってあれで顔がいいから救われてるみたいなものでしょ?」「よけいなお世話じゃ!」「ウチ、ダーリンが好きなんだもん。ダーリンと、お母様やお父様やテンちゃんや、終太郎やメガネさんたちと、ずーっとずーっと楽しく暮らしていきたいっちゃ。それがウチの夢だっちゃ」「何よ!じゃ要するに今と同じじゃない?」「だから今とっても幸せだっちゃ。べー」「…ま、それだけストレートに言われちゃ返す言葉もないわね」「火の後始末くれぐれも頼んだぞ。ま、せいぜい頑張ることだな。残すところ今日一日。明日は学園祭の初日じゃからな」

★「過労、睡眠不足、栄養不良、自律神経も失調しとるし顔も悪い。要するに心身共にボロボロじゃ。今や移動するストレスと化しておる。とにかく職場を離れて静養するのが一番。久しぶりに下宿に戻って夕方まで仮眠を取るのがよろしかろう。神経が高ぶって眠れん時はこれを〝トランキライザー〟」

「しかし…妙な話じゃな。数日、部屋をあけて久しぶりに戻ってみれば、中は青カビやらシメジモドキで廃墟も同然。ちょっとした浦島太郎じゃな。友引高校という名の竜宮城でドタバタ明け暮れて月日のたつのも夢のうち…お主、カメでも助けたか?」「実は近頃、妙に気になっとるんですが…ホラ、よくあるでしょう?初めての街を歩いていて、いつか見たような光景に出会ったり、今、自分がしているコトを、いつかそのままそっくり、くり返していたような気がしたり…」「デジャビューというやつじゃな。疲れた時に人間の脳が生み出す偽りの体験じゃ」「私もそう思っとりました。疲れているんだと…だから、そんな奇妙な考えに取り憑かれるんだと。今日、あの部屋を見るまでは…」「何の話じゃ?」「さっき校長が言っとりましたね。今日一日、明日は学園祭の初日だと。それと同じようなセリフを以前にも聞いたような…」「疲れておるのじゃ。疲れておるから、そのような願望がありもしない記憶を作りだすのじゃ。連日あの悪ガキどもの相手をしておるのじゃから無理もないが…ま、それも今日で終わりじゃ。明日は学園祭の…!」

★「そう考え始めてみて初めて気がついたんですが、自分でも驚くくらい記憶がはっきりせんのです。昨日のコトも、その前日のコトも…いや、うっかりすると数時間前のことすら忘れているコトがあったり、いつ何処で誰と会い、何をしたのか、大体私が学校に泊まり込んで幾日経つんでしょうね。3日ですか?4日ですか?」「さて…ドタバタしておったからのう」「忘れてしまう程、前からですか?」「お主、いったい何を考えておる。ハッキリ言うてみい」「これは、あくまで仮説でして、私のボケた頭が生み出した夢想なら無論それにこしたことはないんですが、私はこう思っとるんです。昨日も一昨日も、いや、それ以前からずーっとずーっと以前から気の遠くなるくらい前から私らは学園祭前日という同じ一日の同じドタバタをくり返えしとるんじゃなかろうかと。そして、明日も…」「何をバカな!疲れておるのじゃ。疲れて意識が混乱しておるだけじゃ。今日一日ゆっくり休んで明日になれば…」「明日になればどうなるんです?本当に、今日と違う明日が来るというんですか?今日と違う昨日も思いだせんというのに」「仮に、仮にお主の言う通りだとして、では、なぜ周りの人間が騒ぎ出さんのじゃ?生徒たちがそれほど長く学校から戻らねば父兄が黙っておるまい」「同じ一日をくり返しているのが友引高校だけでないとしたら?友引町全体が…いや、世界全体が同じ一日をくり返しているとしたら…」「世迷い事もいい加減にせい!お主のいうことは完全に常軌を逸しておる。妄想じゃ。それはお主の妄想じゃ」「サクラ先生、私さっきから必死になって思い出そうとしてるんですが、どうしても思い出せんのです。今日は一体、何月の何日でしょうね…教えていただけますか?昨日から着のみ着のままとして、こんなもの着とるとすれば、冬なのかもしれませんが、この汗は冷や汗なんですかね。それとも、この陽気のせいなんでしょか。それに、さっきから聞こえとるこれは…これも幻聴なんでしょうか」

「浦島太郎は、竜宮城で夢のような日々を送り、そして、懐かしい故郷へ帰ってみれば、そこではすでに数百年の歳月が流れていた。もし、カメを助けたのが太郎一人でなく、村人全員だったら…村人全員が、竜宮城へ行ったとしたら…どうだったでしょうね。サクラ先生は霊能力者でいらっしゃる。この街の何処かで誰かに異変が起きたとすれば、真っ先に気づかれたでしょう。しかし、街全体が…サクラ先生を含めた世界全体に異変が起きたとしたら!」「もうやめんか!全てお主の仮説じゃ。推測にすぎん。どこに確証がある!」「こうして話していることも明日も忘れているとしたら私は…」「やめいと言うに!」

★「運転手、急いでくれと言ったはずだが…まだ着かんのか?」「はいはいそうです」「表通りから友引高校まで車でたかだか2〜3分のはず。やけに掛かるではないか」「お客さん皆さん同じことをおっしゃいますなあ。タクシーに乗ると時間が延びるんですかねえ。お客さん、カメに乗って竜宮城へ行く話、知ってます?」「今その気分を味わっとる」「カメに乗って行ったのが太郎だけでなく、村人全員だったらどうだったでしょうねえ。全員が竜宮城へ行って、そして揃って村へ帰ってきたとしたら、それでもやっぱり数百年の歳月がたってたことになるんでしょうかね。村人が誰一人気づかなかったとしても」「なんの話をしとる」「なまじ客観的な時間やら空間やら考えるさかい、ややこしい事になるんちゃいまっか?〝帯に短し待つ身に長し〟いいますやろがな。時間なんちゅうもんはアンタ、人間の自分の意識の産物なんや思たらええのや。世界中に人間が一人もおらなんだら時計やカレンダーに何の意味があるっちゅうねん。過去から未来へきちんと行儀よう流れとる時間なんて始めからないのんちゃいまっかいなあお客さん。人間それ自体がええ加減なもんなんやから時間がええ加減なのも当たり前や。きっちりしとったらそれこそ異常でっせ。確かなのはこうして流れる現在だけ。そう思たらええのんちゃいまっか」「面白い。これは本当にカメに乗ったのかもしれんな」「このまま竜宮城まで行きまっか?お安うしときまっせ」「ただのカメではあるまいが…正体見せい!」「バカヤロー!大丈夫ですか?お客さん」「…逃したか」

「〝二度目は悲劇、三度目は喜劇〟と言うが、一生やらせておくわけにもいかんか」

★「築60年、木造モルタル三階建ての時計塔校舎、いつから四階建てになったのかの。あの連中が中でどんなドタバタを演じてるか目に浮かぶわ」「それじゃ初めから知っていて…」「今回の一連の事件の中心には確かに友引高校あり。だが、建物自体を調べたところで何も出てくるはずがない。要は事を起こすことじゃ。昨夜のようにな。必ず何か反応がある。それを見定める以外、核心に迫る方法はない。行くぞ!」

「私の名はメガネ。かつては友引高校に通う平凡な〝いち高校生〟であり、退屈な日常と闘い続ける下駄ばきの生活者であった。だがあの夜、ハリヤーのコックピットから目撃したあの衝撃の光景が、私の運命を大きく変えてしまった。ハリヤーで、あたるの家に強行着陸したその翌日から、世界はまるで開き直ったかのごとく、その装いを変えてしまったのだ。いつもと同じ街、いつもと同じ角店、いつもと同じ公園…だが、何かが違う。路上からは行き来する車の影が消え、建売り住宅の庭先にピアノの音も途絶え、牛丼屋のカウンターであわただしく食事する人の姿もない。この街に…いや、この世界に我々だけを残し、あの懐かしい人々は突然その姿を消してしまったのだ。数日を経ずして荒廃という名の時が駆け抜けていった。かくも静かな、かくもあっけない週末を一体誰が予想しえたであろう。人類が過去、数千年に渡り営々として築いてきた文明と共に西暦は終わった。しかし、残された我々にとって終末は新たなる始まりにすぎない。世界が終わりを告げたその日から、我々の生き延びるための闘いの日々が始まったのである。奇妙なことに、あたるの家近くのコンビニエンスストアは、押し寄せる荒廃をものともせずに、その勇姿をとどめ、食料品、日用品、雑貨等の豊富なストックを誇っていた。そして更に奇妙なことに、あたるの家には電気もガスも水道も依然として供給され続け、驚くべきことに新聞すら配達されてくるのである。当然我々は、人類の存続という大義名分のもとに、あたるの家をその生活の拠点と定めた。しかし、何故かサクラ先生は早々と牛丼屋〝はらたま〟をオープンして自活を宣言。続いて竜之介親子、学校跡に浜茶屋をオープン。そして面堂は、日がな一日戦車を乗り回し、おそらく欲求不満の解消であろう。時おり発砲を繰り返している。何が不満なのか知らんが実にかわいくない。あの〝運命の夜〟からどれほどの歳月が流れたのか。しかし今、我々が築きつつあるこの世界に時計もカレンダーも無用だ。我々は、衣食住を保証されたサバイバルを生き抜き、かつていかなる先達も実現しえなかった地上の楽園を、あの〝永遠のシャングリラ〟を実現するだろう。嗚呼、選ばれしものの恍惚と不安、共に我にあり!人類の未来が、ひとえに我々の双肩に掛かってあることを認識するとき、目まいにも似た感動を禁じ得ない。メガネ著〝友引前史〟巻1〝終末を越えて〟序説第3章より抜粋」

僕はなあ諸星、お前たちがこのいい加減な世界で惰眠をむさぼり遊びほうけている間、ただいたずらに戦車を乗りまわしていたわけではない。サクラさんと連絡を取りつつ、この世界の構造を調べ、なんとか元の世界へ戻る方策を練っていたのだ」「そりゃどうもご苦労なこって」「それがどんなに苦しい日々だったか…僕だって遊びたかった!何もかも忘れてラムさんと楽しい日々を送りたかった!」「妙な格好つけんと、すりゃあよかったのに」「なんだとお!?自分のおかれた状況もわきまえずコロコロと太りやがって!」「やめい!落ち着かんか面堂。本題に入れ」「失礼しました。つい…頭の悪いお前のために順序立てて論理的に説明してやろう。いいか、このテーブルがあの巨大なカメに乗っている我々の世界、つまりこの友引町だ。お前も見たな。そしてこれがお前の家だ。僕自身がレオパルトの主砲の到達距離をもとに測量した結果によると、直径約2キロのこの円形の世界のちょうど中心に位置している。文字通り、世界の中心というわけだ。こんな世界がカメに乗って空を飛んでいるだけでも充分異常なのだが、問題は実は別のところにある。なぜ諸星家にのみ、ガス、水道、電気が供給され続けているのか…いや、そもそもどこから供給されているのか。請求書は来たか?」「いや、ちっとも」「お前やメガネたちがバカ食いしているあの、コンビニエンスストアの食料は何故尽きないのか。更にさかのぼってこの町の住人たちはどこへ消えてしまったのか。それもたった一夜で。ええ、何故だ!」「俺が知るかよ」「日常生活に不都合がないという点を除けば…否!日常生活に不都合をなくすために、この世界は実にいい加減に、ほとんど言語道断と言っていいほどデタラメにできている。こんな世界は物理的にありえん。もし、ありうるとすればそれは…」「夢の中だけ…か?」「諸星!貴様そのことに!?」「とっくに気づいとる。俺だけでなくメガネたちもな。ただあまりに安直な結論なので口に出して言わんだけの話だ。どうやらご苦労さんだったようだな面堂」「それだけ分かっとって何故毎日遊びほうけとるんだ!僕はお前たちのその態度が!」「とりあえず遊んどるしかなかろうが!誰の夢なのかも分からんのに!」「ほー、分からん?そーかそーか、分からんかあ!ざまあみろ!分かんねーでやんのよ!大洗海水浴場!僕知ってるもーん。いいか諸星、簡単な消去法の問題だ。僕とサクラさん、そして消えてしまったしのぶさん、竜之介さんでないことは確かだ。諸星の両親、これは我が家に多人数が住みつかれて迷惑しとるはずだから除外する。諸星本人でないことも確かだ。そうなら今ごろこの世界は女で充満しとる」「よくわかってらっしゃる」「ジャリテンや子ブタ、一人息子に失踪された竜之介の父君は論外として、残りは5名。メガネたちはラムさんとひとつ屋根の下で暮らして楽しくやっとるが、4人揃ってというところが問題だ。夢であれば当然抜けがけ自在。他の3人にもいい思いをさせてやるような慈善家とも思えん。すると…」「ラムが?そいつはどうかな」「何?僕の推理に誤りがあるとでも?」「他の事はいざ知らず、しのぶと竜ちゃんを消したのはどうもなあ。あいつはそんな事をする女じゃない。長年連れ添ってきた俺にはよく分かる」「諸星、貴様よくもぬけぬけと!」「その点に関しては私も同意見じゃ。今までの話、大筋においては正鵠を射ていよう。ただ、乙姫がラムであったにせよ、竜宮城へ人を誘うのはあくまでもカメ!ラムの願望を実現すべくこの世界を創り出した第三者の存在の可能性を失念しておる」「そうそうそれよ、それ」「何を感心しておる、お主のことをいっとるんじゃ」「ん?あの、それってどういうことなのか」「だから、お主がカメだと言っておる」「あん?んん?またまたサクラさんてば。それじゃ俺がこの世界を作ったとでも?」「そのとおり」「サクラさん、一介の高校生にそんな大それた事ができるわけないでしょうが!」「一介の高校生ならそこにおる。出てくるがいい!」

「夢の邪鬼と書いて夢邪鬼。その名のとおり夢を操り人々に邪悪の種を植えては悦にいる悪しき鬼。血塗られた歴史の暗部、そこには常に闇の中にうごめくお主の姿があった。内気な???をして狂気の独裁者たらしめたのは誰か。詩を愛し、善政を持って知られた帝が、血の専制の果てに己が都に火を放ったのは何故か。敬虔な使徒は師を裏切り、篤実な友はその盟友を刃にかけた。菩提樹の下で修行を積むゴータマの心が惑わされたのも、アダムとイブが禁断の実を食したのも、全てお主の吹き込んだ怪しげな夢に自分を見失ったためであろうが!」

★「ラムの夢を使って何を企んでおるかは知らぬが、こうして正体を暴かれた上はお主の目論みもついえた。我らをすみやかに、この夢の世界より解き放ち、何処へなりと立ち去れい」「この姉さんの言うこと聞いとったらなんやワテほんま悪魔みたいやな」「そのとおりであろう」「冗談じゃおまへんで。そらまぁあんさんがた生身のお方たちより多少の術は心得とるし、だいぶ長う生きてはおりまっけどな!そやなあ、これがくせもんなんやなあ。長ごう生きとるいうのは。そりゃあずいぶん色んな人たちに夢を見させてきましたわ。姉さんが今言わはった人の中にも確かにわてが夢を紡いであげた人がおりま。けど、勘違いしてもろたら困りまっせ。わてが創るんは、そのお人が見たいと思とる夢だけや。そやから、夢が邪悪なもんになったんやったら、それは、そのお人に邪悪な願いがあるから」「善悪はそれを用いる者の心の中にあり。科学者がよく使う詭弁じゃ」「ええ夢かてぎょうさん思い知ったんやで。せやけど、みな長続きしまへんねん。みなわてを追い越して悪夢になって最後はがしんたれに食われてしまいまんねん。そのたんびに、わてまた別の夢のかけら捜してあっちゃからこっちゃへ、こっちゃからあっちゃへ、同じことのくり返しやがな。わてもう疲れてしまいました。もういっそのこと人に夢見さすのやめよ。ポッと消えても…その方がなんぼか楽や思たぐらいですわ。そんな時やった。あのお人と逢うたんは。あれは、どこぞの水族館でおました。わてにはすぐ分かりましたで。えらい変わった星の下に生まれはったお人やと」

★「夢創るのが僕の仕事でんねん。楽しい夢、悲しい夢、恐ろしい夢…ま、手広うやってまっせ。そやけどね、なんや最近疲れてしもて引退しようかなあ思とるんですわ。対人関係に悩むことが多くって。僕ってやっぱりナーバスなのかな」「ふーん」「そや、仕事納めにどうです?ラムさんの夢このわてに創らせてくれまへんか?いえ、無論ロハでっせ。どうでっしゃろ?」「うちの夢を?」「わてね長い間、捜し求めておりましてん。途中で悪夢に変わったりせえへん純粋な夢、永遠の夢の世界を創りたいんや。あんたなら大丈夫。わてには分かりまんねん。さ、聞かせておくれやす」「うちの夢はね、ダーリンと、お母さまやお父さまやテンちゃんや、終太郎やメガネさんたちと、ずーっとずーっと楽しく暮らしていきたいっちゃ。それがうちの夢だっちゃ」

★「よくよく見ると、女たちの中にラムがおらんがアイツはどうした?」「!…おんどれ今なんと言うた」「ラムがおらん。アイツは何故ここにいない?ん、どした?」「な…おのれ何考えとんのや?あの子からあれほど逃げたがっとったんは何なんや」「はあ、なるほど。長く生きとっても人間を見る目は成長せんというわけだ。いいか!よく聞けよ!俺はな、他の子と同じように、ラムにもきっちり惚れとる!ただ、アイツは俺が他の子とお付き合いしようとすると邪魔するので結果的に逃げ回ってるわけだ。分かったか!分ったらラムを出せ!ラム抜きのハーレムなど不完全な夢、肉抜きの牛丼じゃ!そんなもんぶち壊して俺は現実に帰るぞ!ラムを出せ!」

「あんさん夢でよかったと思うとりますやろ。現実やのうてよかったと。夢やからこそ、やり直しがききまんのや。何べんでもくり返せますのや。な、こういうの知ってまっか?蝶になった夢を見た男が目を覚まして、果たしてどっちの自分がホンマやろ、もしかしてホンマの自分は蝶が見ている夢の中におるんとちゃうやろか。まあね、夢やたら現実やたら言うて、所詮は考え方ひとつや。なら、いっそのこと夢の中で面白おかしく暮らした方がええのんちゃいまっか?あんさんさえ、あんなムチャ言わなんなら、わてなんぼでもええ夢創らせてもらいまっせ。わての創る夢は現実と同じなんや。そやから、それは現実なんや。悪いようにはせえしまへん。そうしなはれて。ほなわて、上でまってますさかいな。決心ついたら来なはれや。いやいや、この階段登ってきたらそれでええのやがな。待ってまっせー」

★「お兄ちゃん、どうしても帰りたいの?」「お兄ちゃんはね、好きな人を好きでいるために、その人から自由でいたいのさ。分かんねえだろうな…お嬢ちゃんも女だもんな」「教えてあげようか?」「えっ!知ってんの?現実へ帰る方法知ってるの?」「誰でも知ってるよ。ただ、目が覚めると忘れちゃうの。こうやってここから飛び降りるの。そして、下へ着くまでに目が覚めたらどうしても会いたい人の名前を呼ぶの。名前を呼べない人はきっと目が覚めるのがイヤなのね」「それなら大丈夫。お兄ちゃん会いたい人いっぱいいるから」「その代わり約束してくれる?」「ん?」「責任とってね」

★「ほんま…あの人らと付き合うのは並大抵のことではおまへんで」
幌舞さば緒

幌舞さば緒