Yutaka

マンダレイのYutakaのレビュー・感想・評価

マンダレイ(2005年製作の映画)
4.3
基本的には前作『ドッグヴィル』と同じ。今作では更にテーマを絞り、黒人奴隷制から教訓なんか無いという教訓を描く。前作のラストで示された赦しの傲慢さ。今作ではその傲慢さにフォーカスが当てられ、まるでジョージ・オーウェルの『動物農場』のようなレトリックで無責任な理想主義の恐ろしさを暴いていた。それはアメリカの軍事介入に対するストレートな批判でもある。クレジットではブッシュが映し出され、そこから当時のブッシュ政権下のイラク戦争に対するトリアーの否定的なイデオロギーが分かる。
今作の問題点もあると思っていて、それは全くの部外者であるトリアーが達観した視点から奴隷制について描き、ある環境で育ったらそこで培われた生き方から抜け出す事が難しい事を描いたことで、それはアメリカに染み付いた差別構造の本質を突いているんだけど、実際の被差別者の主観を無視しているとも言える。描いている事は正しい一方で、倫理的にギリギリのラインなのはトリアーの作品でいえば日常茶飯事の事なのだけど。
グレースという個人の話でいえば、前作の鏡となるような作品だった。人間の醜さを他者に見たグレースが、今作では自らの中に見る。ある意味、ドッグヴィルの人々は、グレースの中にある影が投影されていたともいえる。
本来は三部作の予定だったらしいから、ここまで描ききった後、何を撮ろうとしたのかは気になるところ。
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