垂直落下式サミング

大殺陣 雄呂血の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

大殺陣 雄呂血(1966年製作の映画)
4.2
信州水無月藩で隣藩の藩士が背後から斬られて殺害された。犯人は家老の息子だったが、名家の人間が狼藉をはたらいたとあっては大スキャンダルとのことで、藩士の小布施拓馬が身代わりとなり罪を被って一年ほど姿をくらますことになる。一年後には疑いを晴らし帰参させてもらえるとの密約だったのだが、戻ってみると唯一の証人に裏切られてしまう。下手人として捕らえられそうになった拓馬は数人を斬り捨て逃走。追手から逃げながら理不尽な武士の世に刃を向けるようになっていくのだ。
刺客に追われながらの道中で、拓馬はやくざな稼業をする者たちとかかわり合いになり、こんな理不尽な扱いを受け続けるのなら、彼等のように悪人に身を落としたほうが楽なのかもしれないと心を惑わされもするのだが、それでも一本気に武士たろうとつとめる姿がいい。
刺客たちが発する「義理を通す」とか「我が面目にかけて」という言葉が、胡散臭くもあり、格好よくもあった。
韓国ノワールなんかを観ていると思うのは、序盤から主人公を徹底的にいじめ抜く物語があってこそ、艱難辛苦乗り越えた後に描かれる感情の爆発が、その人にとって救済たりえるのだということ。雷造が向かってくるもの全員ジェノサイドする大立回りを演じる大殺陣の場面は、袋いっぱいに詰め込まれた彼の鬱屈が、口紐を緩められ今まさに外に飛び出んとするかのような解放の瞬間だ。
何100人もの敵を相手取り、長物や十手に刺叉はもちろんのこと、雨戸や梯子や荷車で退路を断たれて追い詰められ、刀を振り回しながらぜえぜえと息を切らし、倒れ込みながらもけして刀を放さない姿が泥臭い。ていうか長回しのカットが多いので普通に疲れてる。