ろくすそるす

NAGISA なぎさのろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

NAGISA なぎさ(2000年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

 「昭和のある夏」を平成(2000年)から描く青春映画。ノスタルジイを感じさせるものの、古き良き時代への郷愁を売りにするのではなく、あくまで作品のドラマで勝負している。
『菊次郎の夏』にも雰囲気は似ているのだが、不器用で粗暴な男と少年のロードムービーであるのに対して、『NAGISA』のとったポジションは「ひと夏の体験を通して、少女が自ら《大人》へ行き来をする」ところが評価できるポイントであると感じた。

 江ノ島の浜辺や路地を舞台に、小学生の西宮なぎさは、はじめは、親友のノリコ(子どもっぽい)と「ピューピューラムネ」を吹く少女であったが、ビクターのレコード・プレイヤーが欲しくなり、叔母の運営する海の家でのアルバイトをしはじめる(最初はぎこちないが、確かな充実感を覚える)。
従姉のレイコとその彼氏とゴーゴー・ダンスをしてみたり、金持ちのホテル経営者の令嬢マミ(最初は嫉妬で毛嫌いしていたが一時的に好意を持つ)との対照によって自分の家(漁師の父の死により、シングルマザーの母は飲み屋の女将として、下世話な酔っぱらいに接客をする)を意識する。
 主題として展開される、海の漂着物を拾っている色白の少年ヒロシとの出会いは絶妙。体の弱い彼に水泳を教えるうちに初恋が芽生える。

特に、この映画の白眉とも思える演出が、パーマをかけたなぎさが、自分の髪の毛をヒロシに見せたい見せたくないと葛藤する場面。ここには、パーマによって「女」、「大人」になることへの葛藤が表現されている。そして、対等(等身大)の恋人として、おかっぱ(まだ子どもでありたいという選択か?)に切り直すものの、ヒロシは不慮の海難事故により命を落としてしまう。

 ヒロシの死から、ほろ苦さも残るが、ノリコと再び遊ぶことによって、もう一度「子ども」へ参入する。
 子どもから、大人へ、そしてもう一度子どもへと戻る彼女。単純なエスカレーター式の「成長」としてではなく、心情とリンクさせて物語る点が優れている。
 
また、映画の中のキスの幻想から現実のファーストキスに至るまでの伏線の貼り方が上手い。
 映像風景も美しく、構造的に見てもとても良く出来た面白い映画。

※ただ欲を言えば、お金持ちの娘マミが、もし両親の組み合わせが違うとしたら「あなたが私だったのよ」と言う辺りはもう少し突き詰められてもよかったんじゃないかなぁ。お金持ちの生活に窮屈さを感じている彼女を「演技」でしかなかったとしてしまうのは、ちょっともったいないようにも思った。