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クィーンのNMのレビュー・感想・評価

クィーン(2006年製作の映画)
3.3
新政権誕生とダイアナ妃死去が立て続けに起きた慌ただしい数日間のエリザベス女王2世の苦悩を描く。
特に女王の、自分はずっと国民を思ってきたので誰より知っている、国民はもう私を嫌っているのでは、国民の希望を受け入れるか、しかし伝統も守らなくては、という強く優雅で冷静ながらも一人の人間として気弱になったりする様子は映画としてとても面白かった。
女王始め各人物にとても親しみの持てる描き方。悪役的な人物はほぼ見当たらない。
特にイギリスや政治に疎くても問題なく観ることができる。
女王はもちろんペラペラ心情を語ったり思い切り感情を表現したりはしないが、その様子を見ていると複雑な心のうちを想像できるよう作られている。

誰もが羨む地位を持つ彼女の日々は、決して楽ではない。
食事中も睡眠中も報告相談が入り中断され、心の休まる時は少ない。

ブレア首相が当選。
労働党党首であり反君主政権の誕生だが、女王は意見を表明する権利を持たない。
「私も一度でいいから選挙権を持ってみたい」と含みのある独り言をもらす。
(ブレアは別に王室を潰してやろうなどとまでは企んでいない)

前年王室を出て今は奔放に人生を謳歌するダイアナ妃のゴシップは日々話題に上がる。正直、王室は彼女には以前から悩まされ、不倫ゴシップや離婚問題、それに伴うリークなどの泥沼は王室の権威を損なう最大級の危機でもあり、そこから王室不要論が盛り上がってきた。

そしてパパラッチに追われ続けるダイアナに、ある日悲劇が起きる。
女王夫妻、元夫チャーチル、王子たちはウィンザー城(週末を過ごす城)滞在中にこの知らせが入った。

ダイアナは王室を出たとは言え、国民に絶大な人気を持つ。王子たちの母親であることには変わりなく、前例もないため非常に取り扱いが難しい。

フランスで亡くなった彼女を王室のチャーター機で迎えに行って良いものか。予算の無駄遣いと叩かれはしないか。
宮殿に帰るべきか、孫たちと一緒にいるべきか。国民に向けどのような声明を出すべきか、出さぬべきか。弔辞を発表すべき関係性と言えるのか。

ブレア首相はいち早く弔意を表し国民の心を掴んだ。まるで王室と対峙するかのような構図となった。各国の代表者も続いた。

葬儀は通常なら内輪で済ますところだが、国民は国葬を望む。
あまりの流れに国葬を決定。王室内にもダイアナを慕う者はたくさんおり、極力譲歩することになった。
女王も各国代表もその流れに逆らったらどんな反感を買うか計り知れない。

人目を気にしないダイアナは、その欠点さえも愛された。新しい時代の象徴で、体制に挑む勇者のような扱い。
女王たちは人目、特にマスコミには細心の注意を払って行動してきた。しきたりと伝統を守ることがアイデンティティの一つと言えるだろう。
それは極めて大きな違いだった。

不満はまだまだ王室に寄せられる。王室から声明を出せ、反旗を掲げろ(宮殿は誰のためにも反旗を掲げる伝統はない。)と、ぞくぞく。
国民の献花の山で場所がなくなり、宮殿伝統の衛兵の交代式は別門で行うことになった。前例のないこと。

しかし女王には、マスコミの作り出す流れに流されない確固たる意見と自負があった。マスコミは自分たちに避難の矛先が向かないためにも、王室バッシングの流れを作っている。
女王として今までずっと国民を見つめ続けてきた。千年以上続くヨーロッパ最大の王室。何もかもすぐ人の意見を取り入れるのが正解ではないと知っている。
ともかく今は母親を亡くした幼い王子たちのそばにいることは大事で、宮殿に戻るべきではないと考えている。さらに戻れば自分がマスコミの餌食。
しかし圧倒的スピードで敵が増え総攻撃されているような事態は、今までずっと国民のことを思ってきた女王には耐えがたい。

ブレア首相は王室を否定しなかったが、それは国民の支持を得なかった。
ブレアは最初こそ革新派だったが、この数日女王と接するうち、徐々に戦友のような感情を抱いた様子。
ついに国民調査の四分の一が王政の廃止に賛成との結果が出る。このままでは最悪の事態にも発展しかねない。
首相の説得で、ついに女王は考えを変えることに。ただ今度は女王が首相に屈したと揶揄された。

宮殿に着き献花の山の前で車を降りて国民と話してみると、国民はしっかりと女王に経緯を払ってくれた。
凛とした表情で全国放送へ臨む。
「我々」という主語で感情を冷静に振り返り、ダイアナ及び全ての死者に弔意を述べた。

王室への敬意が損なわれてはいないか女王はまだ心配していたが、これを機に自分さえいつどうなるか分からないという覚悟を決めた様子。
首相とはこれから悪くないタッグが組めそうだ。


王室の話なので画面がいつも美しい。室内の調度品はもちろん、王室周りの人々も伝統的な服飾にも目を奪われた。
そして犬たちがかわいい。
ただ豪華過ぎる印象はなく大げさな音楽などでストーリーを邪魔することもない。
実話がもとだしテーマがテーマなのであまり激しい演出はなされていないと思われる。

ウィンザー城......ウィンザーにある公邸の一つ。女王が週末を過ごす城。ロンドンから34km。住居人がいる城で世界最大。王室図書館やグレーとウィンザーパーク、王室墓廟(ぼびょう)を所有。女王が訪れているときは王室旗、平日などのいないときはイギリス国旗が掲げられている。航空写真はテムズ川のほとり、広大な緑地が特徴的。
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