アーリー

醜聞(スキャンダル)のアーリーのレビュー・感想・評価

醜聞(スキャンダル)(1950年製作の映画)
3.7
2023.10.31

マスコミに翻弄される男女二人と弁護士のお話。これまでの三船と志村喬の上下関係が逆転してるのが面白い。

たまたま安芸高田市の石丸市長と中国新聞の記者とのやり取りを見たところだったので、何ともタイムリーな気持ち。マスコミが必要なのはわかる。そういう独立した、というと疑問はあるかもしれないけど、権力に対してメスを入れる存在はあった方が良い。けど根拠もなく無闇矢鱈に記事にしてしまうのは良くない。権力に対抗するための存在が一定の権力を持ってしまう。それは仕方のないことで、マスコミやメディアはそれを意識しないといけない。ペンは剣よりも強し。写真と活字だけでこんなにも振り回される人々も良くないなぁ。結局民衆がそれを求めてるから需要に繋がるわけで。そもそも今作の二人は不倫ではないし、浮気でもない。著名人が恋をして何が悪いのか。アイドルとか清純派の芸能人。恋人なんて今までいたことありませんキュルン。可愛いな、応援したいな、デートもしたことないのか、純粋潔癖は美しいな。バン、速報!実は恋人がいました。なんやったら昔から全然遊んでます。おいなんだよ嘘ついてたのか騙された。それまで貢いだ金と、俺私の気持ちを返せ。アホなんかなほんま。そんな売り方することも、そんなんで騙されたって騒ぐやつも。お前ら全員気持ち悪いでいいのに。でもそう簡単に断罪出来るわけでもないんよな。そういうのに入れ込む人たちの中には実生活で苦しみを抱えてる人もいる。親子関係、性差、ルッキズム。それぞれがそれぞれの事情により傷ついている。自分だけがこんなにも傷ついている。それは不公平やし、実際自分は傷つけられた。だからあいつも傷つけてしまえ。この悲しみのスパイラルから人類はどうやって抜け出せるのか。物事を善悪の二極化するのは難しい。不倫だってそうやし、殺人、戦争ですら、複雑な歴史や政治が絡み合い、単純にこいつは悪だと断言するのは難しい。関係あるのかないのか、これまで「酔いどれ天使」や「野良犬」でどんな事情があろうと悪は悪。そういう人たちは裁かれないといけないという旨のセリフを言っていた志村喬が、今作で善悪を二極化するのは難しいと断言したのが印象的。

ワイプカットは今作も引き続き登場。事実と異なる記事を書かれた二人が裁判を起こす話やけど、その過程で原告の弁護士志村喬が相手方マスコミの責任者に買収され、それを最後自ら晒すところが描かれる。だからなんかこの弁護士がメインのお話みたいになってて、三船と山口淑子は流されるままの存在になってる。最後は真実と人間の良心が勝つということを言いたかったんかな。ここ二人のドラマがもうちょっと欲しかった。本当はあの宿で二人の間に何があったのが真実だったとしたら、と考えると面白いかもって思ったけど、それは次作「羅城門」でやってるやんてなった。
 今やったらマスコミ系の作品は政治が絡んでくるんかなとか思うけど、今作はまったくなし。全ては虚偽の記事を簡単に作ってしまうことの警告と、最後は良心が勝つんだ、そうあるべきだという意思。結核で5年寝たきりの娘を持つ弁護士の男が賄賂を貰う中で苦悩をするドラマもある。

めっちゃ面白いわけではないけど、普通に楽しめる作品。山口淑子が凄い綺麗で、もう少しキャラ付けされたものを演じさせて欲しかった。千石規子のあの女性にちゃんと突っかかる女性が気持ちいい。言いたいことを言える人は魅力的。
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