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白い足のdiesixxのレビュー・感想・評価

白い足(1949年製作の映画)
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フランス映画に見られる「田舎地獄」の系譜。舞台となる港町は、古城に住む貴族の好色と不貞により、村全体がその子どもであるかのような極めて閉鎖的で不健康なコミュニティとして描かれる。貴族の末裔である伯爵は、城に引きこもり、常に白い手袋とゲートルを身につけていることから、変人扱いされていて、子どもたちから「白い足」と茶化されている。そんなわけで現在の伯爵には権威はなく、町の基幹産業である漁業を仕切っているジョックが事実上の権力者。町の人々はジョックの言い値で魚を取引することに不満をたれつつも、夜はジョックの店で酒をあおるしか楽しみがない。物語はジョックが愛人のオデットを街に連れてくるところから始まる。オデットは町で召使として働いていて、いわば生活のためにジョックの愛人となった。ジョックはオデットを「貴婦人のように扱え」と周囲に命じ、自らも何でも望みを叶えようとする。薄くなった頭髪を無理に誤魔化すようなヘアスタイルがペーソスを誘う。
娯楽のない町で、オデットは注目の的になり、特に病弱で鬱屈した青年モーリスは夢中になる。モーリスは、かつて古城の主が女中に産ませた私生児で、伯爵の異母兄弟。自らの出自と立場へのコンプレックスと伯爵への憎悪を募らせている。
一方、ジョックの店の女中として働くミミは伯爵に淡い思いを抱いている。ふとしたきっかけで伯爵と親しくなり、ドレスを贈られるが、それを知ったオデットもまた伯爵を誘惑し関係を持ってしまう。オデットはそのうちモーリスとも関係を持つが、伯爵との関係を知ったモーリスは自らの復讐にオデットを利用しようと企む…。
それぞれが後ろ暗い欲望と屈折を抱えた登場人物が自閉的な関係性に囚われていき、やがて破滅へと突き進んでいく。結婚式のダンスの狂騒と忌まわしい殺人事件とのクロスカッティングは、後の『ゴッドファーザー』のように壮大。暗闇にはためきながら吸い込まれていく純白のベールには、名状し難い感動を覚える。全てを失い、藁で覆われた古城で、ミミがかつての栄華の幻影を見る場面にも胸を打たれる。どの映画とも似ていない独特の美点を持った忘れることのできない映画。
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