Blake1757

コッポラの胡蝶の夢のBlake1757のレビュー・感想・評価

コッポラの胡蝶の夢(2007年製作の映画)
3.5
夢幻的な映画世界にどっぷりと浸れるという意味で優れた映画だとは感じたが、ストーリーがあちこちで(場所と時代の移り変わりで)分断される感があって、コッポラは敢えて(おそらく夢と現実の区別をあいまいにして両者を混濁させるように)そういう展開にしたのだろうけれど、それを「夢幻的な(またはナイトメアのような)映画世界」と受け入れることもできる反面、前半と後半では別の映画のようにも感じられた。
僕としては後半のヴェロニカが登場するあたりから、物語として(良い意味でのメロドラマとして)ぐんぐん面白くなったし、海岸の岩場で二人が波をかぶるシーンの美しさには息をのんだ。ただ、逆に言えば、前半の「ナチスに追われる」辺りまでは、そこまで映画的なダイナミズムを感じなかったのも正直なところ。勝手ながら、後半に絞ったシナリオにしたほうが良い映画になったんではという気もする。
老練な映画作家にとっての、時間とは何かといった哲学的な命題であるとか輪廻転生のような時空を超えた生だとかについての思考が渦巻いているのだろうというのは感じたもの、浅学な僕には受け止めきれなかった。
最後の「3本目の薔薇は」、手向けの花だったのだろうか。

〈追記〉
「薔薇」について、気になってDVDを見返したのだが、1本目と2本目のシーンでは、分身が「形而上的な論争において経験上の証拠は何も価値がない。君はうれしくないか? ―切りたての新鮮なバラ(few fresh roses)をもらったら」と問いかけている。
3本目については、「3本目は? 3本目のバラはどこに置く?」という問いかけが女性の声で囁かれていた。声の質だけでは聞き分けられないのだが、あの声はヴェロニカかまたはローラの声なのだろう。
解釈はいくつか可能だろうが、最初のシーンでドミニクが「バラは好きだ」と答えていることからも、薔薇は彼にとっての「価値(歓びや褒章)」なのだとすると、あの3本目はヴェロニカからドミニクへの手向けなのだろうな。
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