デニロ

恋や恋なすな恋のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

恋や恋なすな恋(1962年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

1962年製作公開。脚本依田義賢。監督内田吐夢。

劇場のチラシの惹句、/浄瑠璃の『蘆屋道満大内鑑』と清元の『保名狂乱』を題材に恋物語を描いた華麗なる平安絵巻。宮中を舞台とした前半から一転、主人公・保名が正気を失ってからの後半は映画も狂い出します。狐の面を被ったままの登場人物にアニメーション、果ては歌舞伎の舞台セットまで用いる内田吐夢監督の実験的野心に驚愕……! 虚ろになった大川橋蔵の舞もさる事ながら、一人三役を演じた瑳峨三智子が見せる艶にノックアウト必至です。/に誘われるままに。

まさしくそんな作品です。あたかも「帝都物語」の前日譚の如し。封切時の同時公開は『民謡の旅桜島 おてもやん』という美空ひばりのミュージカルだったらしい。観客は面食らったのではなかろうか。

見るに恐ろしい折檻でおもい人榊の前/瑳峨三智子を喪い人事不省に陥った大川橋蔵が唐突に舞い始めると周囲は菜の花畑一色になる。いつまで舞っているのだと呆然としていると不意に止み、背景の幕が落とされ広々とした野原になる。え、特殊撮影じゃなかったんだ。その向こうにはおもい人の双子の妹葛の葉/瑳峨三智子。もはや義太夫の語りに誘われてわたしたちも狂い始めます。

富士山噴火、平将門、藤原純友の乱等と大仰な背景を語りつつ、次のシークエンスは、野に住む狐です。狐狩りで負傷した60カラット超の女性を助ける大川橋蔵。実はその女性、狐です。その孫娘が祖父母に命じられ葛の葉に変身して大川橋蔵に傅くのです。そして、わしらとておなごじゃ、と切ない恋心に忍び泣き。

終盤は更に異様だ。歌舞伎の舞台そのままに幕が開き愁嘆場を迎える。幕開きに仰天していると、大川橋蔵と狐嵯峨三智子は山中の一軒家で世を忍んで暮らしている。ふたりの間には赤子の男子。そこに、大川橋蔵の消息を訪ねて本物の葛の葉が現れる。もはやこれまでと狐の葛の葉は自らの素性を打ち明け、息子を葛の葉に託して野に帰る。

恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信夫の森のうらみ葛の葉

野に帰る間際、狐葛の葉は口で筆を咥え幼い息子にそう書き残すのです。嵯峨三智子は達筆です。

さて、ラストの鬼火と岩は何なんでしょうか。

映画館Stranger さとみんPresents Stranger 東映スペシャルセレクション「時代劇から任侠映画へ」 にて
デニロ

デニロ