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恋路のukigumo09のレビュー・感想・評価

恋路(1991年製作の映画)
3.4
1991年のジャン=ルー・ユベール監督作品。監督としてのデビューは『イザベル・アジャーニ/抱きしめたい(1981)』というコメディであった。彼の作品で日本でも有名なのは、母の出産のために田舎に預けられた少年のひと夏の思い出をノスタルジックに綴った『フランスの思い出(1987)』や、第二次大戦末期に幼い兄弟がドイツ軍脱走兵と出会う『フランスの友だち(1989)』だろう。この2作品とも監督の実の息子であるアントワーヌ・ユベールが出演しているのも興味深い。そして上記2作と共に『恋路』にも出演しているリシャール・ボーランジェはジャン=ルー・ユベール作品の顔ともいうべき存在で、そのボーランジェと大女優カトリーヌ・ドヌーヴの共演は、ジャン=ルー・ユベール監督の集大成的な座組と言えるだろう。

本作の原題は「白の女王」である。これはブルターニュ地方の港町ナントで行われるカーニヴァルにおいて、恒例行事である美人コンテストの優勝者に与えられる呼称だ。この「白い女王」にまつわる男女の事件が20年の歳月の末、もう一度思い出されようとしている。

本作の舞台は1960年だ。かつて「白い女王」の称号を得たリリアーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)も水道屋の職人ジャン(リシャール・ボーランシェ)と結婚し4人の子供に恵まれ、日々を忙しく過ごしている。夫婦仲はというと、険悪とは言わないまでも夫が妻を「リリ」と呼ぶと「その呼び方はやめて」と怒ることがあり、良好とは言いがたい。

そんな田舎町に、20年前リリアーヌが「白の女王」になった日に船で南の島に出ていったきり消息不明だったイヴォン(ベルナール・ジロドー)が帰ってくる。彼は黒人の奥さんとその間に生まれた3人の子供たちと一緒だった。イヴォンは20年前、ジャンと親友でありながらリリアーヌをめぐる恋敵でもあった。イヴォンが姿を消したのには、本作をメロドラマたらしめる密約があったのだが、なにも事情を知らないリリアーヌは当時、裏切られたような思いもありジャンとの結婚を決めた経緯がある。ジャンはジャンでイヴォンがいなくなったおかげで町一番の美女リリアーヌと結婚できたという負い目のようなものを背負って生きてきた。そんなイヴォンが故郷に帰って来たのだから波風が立たないはずがない。ましてやイヴォンは自分の娘ミレイユ(ミュリエル・プルタール)をカーニヴァルで「白い女王」が乗る山車に乗せたいと言い出すのだ。

親同士が感情をぶつけ合い大げんかをしてもジャンの娘アニー(イザベル・カレ)とイヴォンの娘ミレイユはお構いなしといった感じで仲良くなっていく様は微笑ましい。

リリアーヌがタンスの奥に仕舞っていた「白い女王」の白いドレスをミレイユに譲る場面は神聖な儀式のようで20年の重みを感じるだろう。この神聖さこそカトリーヌ・ドヌーヴの魅力であり、大人の恋の物語である本作の魅力である。
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