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マン・ハントの一人旅のレビュー・感想・評価

マン・ハント(1941年製作の映画)
4.0
フリッツ・ラング監督作。

二次大戦直前、ヒトラーに銃口を向けた英国人・ソーンダイク大尉と彼を執念で追跡するゲシュタポの姿を描いたサスペンス。

『死刑執行人もまた死す』『恐怖省』『外套と短剣』同様、フリッツ・ラング監督によるナチス物の一作で、ゲシュタポに追われる男の逃亡劇をスリリングに描き出す。戦時中に製作された反ナチ映画なので、アメリカのプロパガンダ的意味合いが強い。

ゲーム感覚で(殺すつもりはなく)ヒトラーを狙った主人公ソーンダイク。ゲシュタポに捕えられたソーンダイクは隙を見てイギリスへ脱出するが、ゲシュタポは諦めていなかった...というのが基本的なプロット。ドイツからイギリスへの船による脱出劇や、夜のロンドン市街を舞台に繰り広げられる逃亡劇が秀逸。狭い路地でゲシュタポに挟み撃ちにされるシーンや、地下鉄におけるゲシュタポとの一騎打ちは緊張感でいっぱいになる。フリッツ・ラングのサスペンス演出の手腕が随所に発揮されていて、退屈で無駄なシーンが存在しない。

ソーンダイクとゲシュタポの逃亡・追跡劇だけでなく、逃亡の途中で出会った女・ジェリーとの恋模様も見どころのひとつ。ジェリーは陽気であっけらかんとした性格の女で、ソーンダイクと一緒に彼の兄を訪ねた際に、ジェリーと兄の妻が交わす会話が軽妙洒脱でとても楽しい。貧乏で育ちの悪い(?)ジェリーの下品な発言が、上流階級の気取った妻に感染していく様はユーモアたっぷり。
また、ジェリーはソーンダイクに恋してるのに、ソーンダイクはそのことに気付かない。鈍感なソーンダイクの心ない発言に悲しみ、しくしく泣いてしまう姿も印象的だ(3回も泣く!)。
そして、橋の上で二人が別れるシーンが最高に切ない。ソーンダイクを守るため、悲しみを押し殺して“演じる”ジェリーの後ろ姿に胸がつまる。ジェリーに扮したジョーン・ベネット(フリッツ・ラングの常連女優)の演技が絶品で、陽気さと哀愁という相反する感情を巧みに演じ分けている。
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