もとまち

マン・ハントのもとまちのレビュー・感想・評価

マン・ハント(1941年製作の映画)
3.6
1930年代前半。『M』『メトロポリス』でお馴染みドイツ映画の巨匠フリッツ・ラングは、ナチス政権の台頭によって危険な立場へと追いやられていた。ユダヤ系の母を持ち、自身もユダヤ人の血を引いていたラングは、ナチスにとって十分に迫害の対象だったのだ。ヒトラーやゲッペルスに作品を気に入られかろうじて難は逃れたものの、ナチ党宣伝活動への協力を求められて嫌気が差しドイツを出国。パリを経てアメリカに亡命する。そうしてハリウッドに渡ったラングは、そこで多くのB級ノワールを製作することとなる。本作『マン・ハント』は、そんなハリウッド時代のラングが撮った作品の一つ。ゲシュタポに狙われるハメになった男の逃亡劇で、要は反ナチプロパガンダ映画である。それをドイツ映画監督が撮るとは何たる皮肉だろうか。プロパガンダにしてはちゃんと面白く作られており、スリルありロマンスありの娯楽映画として丁寧に仕上がっている。ラングの映像センスも遺憾なく発揮されていて、陰影を巧みに効かせたショットがいちいちカッコよすぎる。霧に包まれたロンドンの街や、無機的なデザインの地下鉄で展開するチェイスシーンも緊迫感があって良い。主人公が飄々とした性格だからか逃走中もテンションが終始コミカルで、そこをもっとシリアスに落とし込んでくれたらもっと傑作になり得たのに、と思う。
もとまち

もとまち