たく

マン・ハントのたくのレビュー・感想・評価

マン・ハント(1941年製作の映画)
3.8
第二次大戦前夜のヨーロッパを舞台に、一人のイギリス人将校がナチス・ドイツに開戦の口実として利用されそうになる話。ナチス独裁体制の恐ろしさを描くと共に、イギリスの宥和政策の腰砕けを強烈に皮肉っており、フリッツ・ラング監督の硬派な面が出て見応えあったね。原作小説が1939年発表、映画が1941年公開で、まだ戦争の決着が付いていないときにこういう作品を作るのがすごい。チャップリンの「独裁者」(1940年)にも同じことが言えるね。

プライベートでドイツに訪れていたイギリス将校のソーンダイク大尉が、ライフル銃でヒトラーに狙いをつけるというドキっとさせる場面から始まる。実は銃には弾が入ってなくて遊びでやったことが分かるんだけど、その後に本当に弾を込めて狙いを付け直す。このくだりが最後まで彼の真意を分かりにくくさせてて、ドイツ軍に捕らえられた彼が暗殺の意図は無いと主張するのがさすがに無理あると思ったんだけど、観終わってみると上手い演出に思えた。ソーンダイクがドイツ軍の自殺工作を逃れてから果てしない逃避行の旅が始まり、ドイツ軍の追跡のしつこさにうんざりする。死神のような細い男が最後まで不気味につきまとってきて、こういうキャラは必ず一人いるよね。

ソーンダイグが商売女のジェリーの家に身を隠してから、この二人の年の差の関係と住む世界の違い(言葉使いやマナー)がちょっとコメディタッチで入ってくるのが良いバランス。ジェリーはその振る舞いからしてたぶん20代くらいの小娘の設定で、ジョーン・ベネットが年齢的には微妙だけどお転婆娘を上手く演じてた。ウォルター・ピジョンの大人の余裕も味わいがあり、彼がジェリーに何度も言い寄られて最後にほだされる感じが何とも良かったね。終盤はシリアス展開で、ソーンダイクの決意がタイトルバックに浮かぶライフル銃と重なるラスト、冒頭の彼の遊びが本気に変わることを表してて見事。
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