櫻イミト

マン・ハントの櫻イミトのレビュー・感想・評価

マン・ハント(1941年製作の映画)
3.5
「死刑執行人もまた死す」(1943)「恐怖省」(1944)「外套と短剣」(1946)へと続く、亡命監督ラングの反ナチ要素作品4本の1本目。

1939年ドイツ。山影からヒトラーに銃口を向けていた英国人アラン(ウォルター・ピジョン)はたちまちナチスに捕らえられた。しかし隙を見て逃走。故郷ロンドンに辿り着くが、ドイツからの刺客に追われ娼婦ジェリー(ジョーン・ベネット)の部屋に転がり込む。。。

シナリオ・演出ともに完成度の高いサスペンスだった。主人公二人に待ち受ける容赦のない運命には胸が傷むが、本作は第二次世界大戦勃発の1941年の制作であり、現実の世界にも残酷があふれはじめていたのだ。

終盤の展開は想像を超えていた。その展開を持って本作を”プロパガンダ映画”とまとめてしまう向きも見られるが、それでは鑑賞法として面白くない。本作のフォーマットはアメコミ映画のヒーロー誕生譚の先駆と言える。例えば「アメイジング・スパイダーマン2」(2012)などが容易に連想される。悪の組織がナチスか架空かの違いだ。

ジェリーにプレゼントした矢のアクセサリーは、その意味もルックも秀でていて映画の教科書のよう。本作の脚本を担ったダドリー・ニコルズとラマー・トロッティはフォード監督の「プリースト判事」(1934)「周遊する蒸気船」(1935)を手掛けたコンビ。単独では、ニコルズは「駅馬車」(1939)など、トロッティは「牛泥棒」(1943)など数々の名作を残している。

ラング監督の巧みな演出が目立つ一本。観客の気持ちを易々と誘導する演出術に怪人マブゼの催眠術を連想した。

※ヒロインを演じたジョーン・ベネットは、本作を皮切りに「飾窓の女」(1944)「緋色の街/スカーレット・ストリート」(1945)とラング監督のノワール作品の代表的なファム・ファタルを演じていく。
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