半兵衛

裸足のブルージンの半兵衛のレビュー・感想・評価

裸足のブルージン(1975年製作の映画)
3.0
別段大したお話ではないけれど、本人たちにしてみれば大問題という物語を軽やかに撮った藤田敏八監督らしい作品。主人公の和田アキ子が経営するドライブインでの一日のドラマをグランドホテル形式で描いているけれど、序盤から起こる小さな物語は伏線として起動せず単なるエピソードとして完結しお客の期待するドラマの爆発は怒らず結局いつもの藤田作品らしく話はとっちらかしでゆるゆるグダグダと物語は進んでいく。

そんな映画館の片隅でひっそりと咲いているような作品ではあるが、ゴッドねえちゃんキャラを封印して普通の女性を平凡そうに演じるドラマのなかで最も違和感のない和田アキ子をはじめ老獪で腕っぷしの強い伊藤雄之助、酔っぱらったりダウン・タウン・ブギウギ・バンドと大喧嘩したりしている姿がコミカルな前田武彦、江戸っ子なおばさん中原早苗、インチキ外人の草薙幸二郎、『あしたのジョー』オマージュでボクサー関係者を演じていると思われる藤岡重慶、伊藤の秘書で意外とコメディ演技が様になっている&エロシーンもしっかりこなすフェロモン全開のテレサ野田、70年代らしい気だるい演技を披露するも同じキャラの芹明香と違い美人なので今でも通用しそうな横山リエ、写真&回想だけの登場かと思いきやワンシーンだけドラマに登場する和田の亡き恋人・和田浩治とお遊びが混じったキャスティングは見ていてクスクスっとさせられる。初々しいくてめっちゃ可愛い片平なぎさ、そんな彼女にセクハラする鈴木ヒロミツなど制作を担当したホリプロつながりのゲストも楽しい。

でも本作で最も注目したのは原田芳雄、詐欺師まがいの商売でその日その日を食いつなぐ情けなさと原田特有の危険なフェロモンが全開している魅力的なアウトローっぷりが混在した姿は日活ニューアクションで原田が演じたキャラのその後を見ているかのよう。そんな原田が密かに愛している和田アキ子や自分が喧嘩した和田浩治、情けない自分の境遇への怒り、むかつく伊藤への怒りなど様々な感情が爆発して伊藤やドライブインに訪れていたプロボクサーの西城正三といった自分より上にいる人間に喧嘩を売るもボコボコにされみっともない姿を和田に見られてしまうのがこの時代らしいみっともない美学を感じる。あと日活アクションでボクサー役を演じてきた和田浩治と日活ニューアクションで一世を風靡した原田が喧嘩で殴りあうという日活映画の流れをパロっているようなシーン(原田が負ける流れもキャラにあっている)も印象的。

ゆるゆるなお話ではあるが、後半の原田の暴走からはじまるドライブインを破壊しながらの乱闘場面はなかなかの迫力。伊藤雄之助と原田芳雄がガラスに突っ込んだり、プロボクサーらしい切れのあるパンチを披露する西城と見事にそれを受けた風なリアクションをする原田の迫真の演技。こういうアクションに手を抜かないところは日活育ちたる所以なのかも。

原田の挫折でもやもやしたところからの、キレた和田アキ子の暴走による伊藤への成敗とドライブインの破壊が爽快。自分の歌がバックで流れながら店を次々に壊す和田の楽しそうな姿は初めて彼女を好きになったかも。

『みな殺しの天使』かよと突っ込みたくなるようなエンディングが不思議と軽やかな余韻を残す。
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