くもすけ

美しき諍い女(いさかいめ)のくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

ベアールの労作。巨匠フレンホーファー(ピコリ)は脱臼した妻を見せてやりたかったよ、と言いながら人形のようにモデルの手足をひん曲げて、朝から晩まで描き続ける。ベンチ、椅子、毛布、直立で、具材もあれこれ変えるが、一向に肉の絵から抜け出けず集中もできない。嫌気が差したモデルが自分でポーズをとって下手ななぞなぞをかけ始めると、画家にひらめきが訪れる。

ベアールはあんまり「諍い」ぽく見えなかったが、モデルはED曲に使われているストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」か。人形が魂を持ったがために苦しむ、ロシア版ピノキオ。

話の大枠は「知られざる傑作」。「彼女たちの舞台」で弾劾の鍵を握る逃亡者を貶めるために、刑事が並べたデマの一つとして使われていた。ロランス・コートが毛布から麗しき足をはみ出させてミューズを演じてた。

で本作ではベアール演じるマリアンヌが飽きるほど全裸を披露したあと、妻とのキメラとして完成される。といっても完成した「傑作」は画面に映らず画家が壁に埋める直前、娘がカバーに手を引っ掛けて僅かに一部があらわになる。4時間付き合って足首だけ!

もともとバルザックの面白さはロメールに教わったらしいが、ヘンリー・ジェイムズも使われているのか。wikiにあがっているのは2つ「The Liar」「The Figure in the Carpet」。ふたつが重なって倦怠夫婦が新たなミューズの闖入で揺れ動く話になったのか。

画家は絵を描きながら、死んでしまった友人のことを思い出す。リューベックとその妻。これはイプセン「わたしたち死んだものが目覚めたら」の主要人物。倦怠夫婦マイヤとリューベックのもとにかつてのミューズイレーヌが亡霊となって現れる、という話。

バーキンも作家なのか剥製作りに精を出している。実は大変嫉妬深く、昔は粘土人形こさえて33箇所針さしたものよ、と言って鳥をバキバキ畳んでいる。作業に必要な薬剤の一つにヒ素のはいった瓶が加わるが、結局これが使われることはなく、最後の夜、妻は夫と十字を背負うと腹を決める。真っ赤な服を着てベッドで手を繋ぎ、老夫が怯える「その後」には、何もない、と釘を刺す。