Genichiro

美しき諍い女(いさかいめ)のGenichiroのレビュー・感想・評価

4.4
森直人さんが「『牯嶺街少年殺人事件』は日本で当時ヒットしなかった。同年に『美しき諍い女』はヒットしていた』という話をしていたがこんな映画(内容もさることながらランタイム237分!)がヒットしてたのどうかしてる。当時はヘアー修正問題も話題になったらしい。ミニシアターブーム‼️何もかも時代を感じる。今作では絵を描くことがスタートしてからはアトリエの中、もしくは外という二つの場面に大きく分けられる。このおっさんにとって世界とはアトリエの外という認識でしかない。実際に描いてるカットやアトリエ内でただ裸の女とおっさんがいるだけの空間を流麗な撮影で見れるものとして成立させる。まあこれをやれるのはすごいし、今作についての言及はだいたいその部分なのも分かる。でも、自分としてはそれと同じくらいアトリエ外の描写も印象的だった。まず序盤の出会いがいいね。ポラロイドで盗撮してるの笑う。そんなの一番バレる。2階でのやり取り、そこからすぐに距離が縮まっておっさんに会いに行く。モデル活動が始まるまでの妙な手際の良さ!そこから延々と映画が終わらないなんて思えないのがウケる。オレンジジュースを飲んでいる二人の間からエマニュエル・ベアールがいつのまにか現れているカットとかも素晴らしい。ミシェル・ピコリとジェーン・バーキンが喋ってる間にちょっとした喧嘩になり、いつの間にか外に出ている長めのカットも…めっちゃ良い。良いんだけど、ではこれがなぜ良いのかってことを考える。流麗な撮影がいい、ってそれがシーン単位で繋がっていても作品としての評価とは全く別だし全体としてはつまらないなんて映画はたくさんある。例えばエマニュエル・べアールがモデルをやめると最初に言い出す場面、建物の中に入ってきてジェーン・バーキンに「悪夢だった」と話す。右へ左へ動く二人を同じような少しずつの横移動で同一カット内に捉える。この少し長めのカットの間に引きの画から気がつくと二人ともバストショットになっている(そのあと、見送りをするカットへと扉→扉で繋ぐ。シンプルなのにそれだけでマジカル)。その他の場面だと建物の中で作業しながら会話している様子を映して、そのあとカメラが引いてパンニングで開放的で鮮やかな外界を見せる。人々の距離感が時間の経過によって文字通り伸縮している。その間、それとは全く関係なく世界は存在しているとでも言うような風景。これが何度も繰り返される。アトリエの場面以外は一見なんでもないようなシーンに思えるけど、これこそ「形式と主題の一致」と言える場面の連続なんだよなー。そして何が素晴らしいって今作は高尚な映画でもなんでもなく、痴話喧嘩とヌードがメインのとても下世話な映画だってこと。めちゃくちゃ良かった。とはいえ長い。ジャック・リヴェットの作品っていつ終わってもいいしいつまでやっててもいいみたいな気持ちになるものが多いけど、さすがに今作は絵が出来上がる終盤になると完全に興味失う。でも、それで評価下がらないくらいの面白さはある。やっぱリヴェット好きだな。
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