シズヲ

友だちのうちはどこ?のシズヲのレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
3.9
「あの人の家も鉄のドアに替えるんだよ」
「鉄のドアは一生壊れんからだそうだ」
「一生ってそれほど長いものなのかね」

間違って友だちのノートを持ち帰ってしまった。今度こそ宿題をやってこなかったら友だちは退学になってしまう。少年は場所も分からない友だちの家へとノートを届けるべく、隣町へと一人向かう……。イラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミ監督の初期作。子役を中心に演技経験無しの素人を積極的に起用しているらしく、それだけに素朴な演技の味わいがある。

作中に登場する“大人”は総じて子供に対する“無理解”の存在として描かれ、子供の事情や言い分に対して耳を傾けることは殆ど無い。「今度ノートを忘れたら退学にする」という叱責で結果的に友だちや主人公を追い詰めることになる先生、「宿題しなさい」の一点張りで主人公の話を聞かないお母さん、「子供には礼儀を躾けるもの」として横暴な理屈を並べる祖父など、半ば社会における不条理の象徴めいて描かれている。“鉄のドア”で仕切られたような、ある種の冷淡と断絶。物語自体を子供目線で描いているだけに、何らかの風刺めいたものを感じずにはいられない。

そういった“大人”の姿に加え、主人公である子役のおどおどした表情やロケーションの雰囲気も相まって等身大の不安感に満ちている。小さな体格の子供を捉えたカットの背景にあるのは大きな白い壁や土ばかり。曇った天気模様や町中の入り組んだ道筋の構造もあり、先行きの見えない迷路の中に迷い込んだような感覚がある。淡白な映像が続くのに、撮影の構図の数々からは時に素朴な美しさを感じてしまう。丘を駆け上がっていく/駆け下りていく少年を捉えたロングショットは特に“見知らぬ土地への冒険”という子供の感覚を映像で示しているようで印象的。

職人の爺さんが登場する終盤からは夜の町中の雰囲気も相まって印象深い。窓の光などを効果的に活用した撮影、そして“鉄のドア”に示唆されるテーマ性。それまで延々と理不尽な存在として描かれてきた大人達だけど、ここに来て初めて主人公に寄り添ってくれる(職人の爺さんも爺さんでかなりマイペースだけど)。暴風で木製のドアが開かれ、そこにはひとり黙々と洗濯物を取り込む母さんの姿が映る。鉄製のドアだったら、きっとそんな姿も見れないままだったんだろうなぁ。ラストも幾ばくかの緊張感を経て“押し花”による粋な結末を迎えるだけに清々しい。
シズヲ

シズヲ