ダイナ

友だちのうちはどこ?のダイナのレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
4.5
友達の宿題ノートを間違えて持って帰ってしまった男の子が返しに行こうと右往左往するただそれだけの映画。傑作です。走れメロスのようでもあり、はじめてのおつかいをHARDモードにしたような作品。

冒頭、主人公アハマッドの友達であるネマツァデが宿題忘れで先生に詰められて泣いてしまう姿が痛ましい程リアリティがあるわけです。そこで「次(明日以降)忘れたら退学な」と言われるわけです。アハマッドが帰宅して宿題やろうとしたら間違えてネマツァデのノート持って帰っちゃったことに気付いて(気付いた時の「……?…….!」みたいな挙動がかわいい。)、「これ返さねーとネマツァデ君退学なるやん…」と焦るのが本作の起であります。

これだけの情報だと「ふーん。返しにいけば良いじゃん」と思う人が大半だと思われますが…。違うんだよ…!そんな簡単な話じゃ無いんだよ…!

まず母親(甲高い声が怖い!)の宿題・家事依頼が執拗に降りかかってきて家を出る事自体のハードルが高く、「友達に返さなきゃ」って願いが馬耳東風。そもそもネマツァデの家が分からないし、他の大人の横槍とか入ってきたりと苦難の道。牧歌的な街並みを包む曇った天気が不安を煽ってきて、本格的に「友達のうちはどこ?」と迷宮を彷徨っていく所が「自分のせいで友達が酷い目にあう」という恐怖に拍車をかけてくるわけです。それに比例して、なんとか友達の元に辿り着きたいと奔走するアハマッドは、保身というよりは「助けたい」という気持ちが強く映るわけでして、土地勘もコミュニケーション能力もまだ不充分な少年が、コミュニティの常識やら風習・しがらみにがんじがらめにされながらも信念持って等身大の力で抗うその姿に、本作を鑑賞している側としては人間の純粋さを感じずにはいられないわけです。

子供の頃チャリンコ無しで遠くの街行くなんて冒険だったじゃないですか。そこから楽しさを差し引いて罪悪感と義務を持って動かされているのが本作主人公と考えるとスリルがどれだけ増すか想像しやすくなるのでは無いでしょうか。超人が助けてくれるでもないし巨悪を討つでもない、過激なシーンも大きいカタルシスも無いわけですが、エンドロールに差し掛かった瞬間の名状し難い充実感はもう…傑作だ!
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