ゆずっきーに

友だちのうちはどこ?のゆずっきーにのネタバレレビュー・内容・結末

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

鑑賞修行僧5日目。そろそろ眼球の深部?が痛くなってきた。でも年末だからお篭もりで精進しないと...。映画は引き算であると常々思い知らされる数日だったが、ここまでシンプルな作品は初めて。

シナリオは「友達のノートを間違えて持って帰ってきてしまったので家まで返しに行きます」、これだけ。本当にこれだけ。劇的な事件も渾沌も何一つ巻き起こらない。それなのに85分間スクリーンに視線を留める力がある。
子役の演技とかステップ気候の情景とかに作品の魅力を帰着させるのは野暮。撮り方も特段巧いとは感じなかった。なのに何故こうも惹かれるのだろう。はっきりとは分からない。

尺の使い方が実生活のそれに近いのかも?テンポのために他の映画が犠牲にしているものを敢えて丹念に拾い上げて撮っている。勇気ある決断だと思う。退屈させない技量含めて素晴らしい。

子供の姿を淡々と記録する映画として観る向きもあろうが、これを寓話と見立てた場合に私が私なりに引き出したのは「大人と子供」という関係性は「大衆と弱者」の関係と同義的であるということだった。
主人公の主張に大人はまともに耳を傾けない。生意気な子供の話には価値も深みもない、まして規範として子供の方が自分より正当であるなどとは想像も出来ません、と。しかしこの映画においては、大人は偏狭極まりない狂人のように描かれており鑑賞者はその振る舞いに憤りすら覚える。ここで思い返すべきは、では我々は普段の生活でどれだけ似たような振る舞いを採用しているか?ということだろう。自分が正しいと凝り固まって、無力で異質なる他者の言い分にはまともに取り合おうともしない、そんな経験が誰しもあるはずだ。
正しい者が力ある者とは限らない。弱さの中にも確たる正しさを抱え続ける、その難しさと尊さを丁寧に撮っているのがこの作品の魅力ではなかろうか。

往々にして寓話的な良作は鑑賞の仕方にも広がりを生む。主人公の不安に乗っかってもいいし、イランの生活感を堪能してもいいし、主題をめぐり脳味噌を捏ねくり回して観るのも楽しい。こういった作品も楽しめるようになってきたという意味では、映画を好きでいて良かったのかなと思う。
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