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友だちのうちはどこ?のfonske0114のレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
4.0
filmarksでフォローしている方の「友だちのうちにノートを届けに行く映画」「しかもその友だちのうちがどこか知らない」とのレビューを見て、「なんだそれは!?イラン映画??子ども!?絶対観たい!」と思い見た。
あらすじは、やはり終始「友だちにノートを届けに行く」映画だった。笑

イランの地方が舞台で、その生活や価値観がよく表れた作品で、子ども目線を大切にした純朴で素敵な作品だった。
U-NEXTで見たのだが、こうした映画をすぐに見られるのは恵まれた環境だなと思った。


以下ネタバレ感想を。

あらすじは先の通り「友だちにノートを届けに行く」なので、「池の水全部抜く」「はじめてのお使い」かのよう。


個人的には教育現場で働いているため、冒頭の学校シーン、自宅での宿題シーンなどその環境の違いと「学びたい時に学べる」ありがたさを感じた。
「途上国では子供達も家族を支え、労働力として見られている」というのは学校で聞いた人も多いと思う。しかしその為に「学びたいものが思うように学べない環境」というものを改めて目にすると、「自分の部屋で自分の机で好きな時間勉強することができる」生活環境というものはなんと恵まれているのだろうと思った。


1980年代の映画とのことで、文化や価値観も大きく違う。特に「子どもには厳しくしつける」「親の言う通りにしなさい」と言うものはイライラさせるが、実際同時代の日本にはまだその価値観はあったと思う。

私は1980年代終わりの生まれなのだが、それでも上記のような価値観はまだあった。私も「男の子だから」や「大人はいいの」と言うものには理不尽を感じたり責任感を変に持ったりしたものだったが、男性の権力が強い「こんな時代、日本にもあったろうな」と思い見るとよりリアルに見えて切なくなったり、今の時代を見つめ直したりする。


この時代背景に、「ただ宿題をしたいのにできないもどかしさ」や「困る友達を純粋に助けたい」と言う子供目線を重ねたことで、より作品と自分とを重ねることができた人は多いのではないだろうか。

母親の「宿題しなさい」のくどさ、「ドアを直しなさい」のドア屋の長いやり取り、「私の昔作った窓は〜」の老人、と「大人よ!話を聞け!」と見ている時に思った。

しかし今思うとこれらは「子供目線から見た大人たちの言葉のくどさや、長さ」が再現されているようにも思える。子ども時代、「一回言えばわかるよ!」とも思ったし「お金が儲けがとかよくわからなくていやだ」「大人の話が長い」とも思った。

それが象徴的に出るのが老人と家を探すシーンで「もっと早く歩けない?」と言う、「純粋にそう思った」子供目線の再現である。

とにかくこの作品は子供目線の再現が素晴らしいと思った。


他にも昔の自分は「隣町へ行く」のは大冒険だったし、「吠える犬が怖い」こともあった。知らない人でもとにかく話かけてなんとかしようとしたこともあったし、そうした気持ちが引いた広い画角と明暗を使った描写なども交えてとても表現されていたと思う。

「ただノートを届けに行くだけ」なのに大冒険でとても興味深く見られたのは上記のようなものが大きく作用し、一本の映画になっていると思った。


他にももちろん「靴下に穴が空いている」と言う貧しさや鶏、羊、ロバ、馬、犬と次々と登場する動物、更に建物や木々など社会的文化的側面にも目を見張った(鶏が鳴きすぎていて笑った)。

日本で見られる欧米以外の映画は都市部が舞台のものが多いと感じるため、中東でかつ田舎が舞台というのは珍しいのではと思った(尚、イランを舞台にした映画に『聖地には蜘蛛が巣を張る』という実際の連続娼婦殺害事件をテーマにしたサスペンス作品がある。私には興味深い社会派映画だったので関心がある方は見ていただきたい)。


ラストでは予想通り、代筆してなんとか難を逃れられたがハラハラし、「夢のような大冒険の一日だったけど、夢ではなかった」というようなあの一輪の花はとても素敵なラストだった。


音楽はほとんどなくドキュメントのようだったが、その分「家からこっそり出る」「ロバのおじさんを追いかける時再び街を出る」シーンで同一曲がかかったのは「旅立ち」のようで、とても効果的に思った。


「ノートを届けに行く」でも全然届けられず笑、こんなに素敵な作品になるんだなと思った。
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