荊冠

友だちのうちはどこ?の荊冠のレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
5.0
アッバス・キアロスタミ初鑑賞。ああ何でもっと早く観なかったんだろう素晴らしい!
抑圧的な教師、まるで話を聞かない母親、旧態依然とした祖父、自分語りがしたくて仕方ない窓職人のおじいさん……あまりに身勝手な大人たちの姿は初めは受け入れがたいが、見ている内にその誇張されすぎた理不尽さが滑稽でユーモラスに見えてきて「めちゃくちゃすぎるやろ!」という笑いに変わってしまう。この世に本当に立派な大人などいやしない。大人というものの根幹は、所詮はこんな程度のものなのだ。
そしてその大人たちに振り回されるアハマッドの健気な姿が実に胸に迫る。大人に無理難題を言いつけられて困惑する彼の、えも言われぬ切ない表情!その透明な眼差しはヴィクトル・エリセ『ミツバチのささやき』のアナ・トレントをも彷彿とさせる。
彼の目に涙が浮かぶ時、片付けた夕飯をもう一度差し出してやる母の姿も良い。日常に追われ話をまるで聞かない母親ではあるが、息子を愛していないワケでは決してなく、そのあまりにザツな、しかしあたたかな心遣いに、教育だの子育てのノウハウだの全部すっ飛ばした根源的な愛を垣間見る。
本作には「理不尽な大人⇔振り回される子供」「老人の封建的な道徳倫理⇔子供の純粋かつ人間的な優しさ」「伝統的な硝子窓⇔新しい鉄の扉」というような、様々な対立構造が見て取れる。そこに、保守的な古い価値観への批判や、失われゆくイランの伝統工芸への慈しみを感じた。
シンプルなストーリーでありながら一時も目が離せないほどの情報量を感じる理由のひとつには、イランの古くて牧歌的な、海外の我々からするとどこかファンタジックにも見える街並みの風情があるだろう。柔らかな陽光に包まれ退色する昼ののどかな光景も、街灯もなくすっかり闇に包まれる中、伝統的な窓の美しい意匠が室内の明かりによって外壁や道に投げかけられている幻想的な夜の光景も、胸を掻き毟るほどに美しく、知らぬ郷愁を掻き立てられる。

メモ:サモワール映ってた
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