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友だちのうちはどこ?の海のレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
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きっと必要のない人にはまったく必要のない映画だと思う。でも必要な人には語り尽くそうとする唇も止まったまま、驚きのあの一瞬がだらりと続くように、ひたすらに愛するしかない映画だと思う。果てしない感動に飲みこまれて涙するしかなかったわたしは間違いなく後者で、友だちのうちを探して走り回った少年はわたしに、この世には涙が出るほど悦ばしい物語がまだきちんと存在していることを思い出させてくれた。いつかの夏の日、わたしの大好きなひとが、部屋に入った蜂を外に出そうと追い回していた、あの後ろ姿を思い出しました、広い背中が少年みたいで終わるまでずっと見惚れていた、だからわたしもいまだに、家の中で虫を見つけると外に逃がしてやりたくなる。ああ、移り変わるからこそ不変だったこの町よ、モノクロームばかりがこの世では永遠だから、真っ青なドア、夕焼け色のセーター、りんごのような頬、目に焼き付けるために耳をすませて。今ここにあるものはいつかどこにもないものなのよ、美しいものから目をそらしては勿体無いし、一生は短い、ひとはいつだって海や樹々やドアの色で誰かのことを思い出す。すぐになつかしくなるものを、なつかしくなってしまう前に閉じ込めたみたいな映画だったから、観終わってすぐ猫を抱きしめた、猫を抱きしめたくなる映画はいつも良い映画なんです。
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