三四郎

東京の人 前後篇の三四郎のレビュー・感想・評価

東京の人 前後篇(1956年製作の映画)
3.8
前篇・後篇に分かれてにいたとは知らなんだ…。
月丘夢路はまだ若いのに二人の成人した子供の母親と継母を演じている…。
継母だが、実の子以上に継子の芦川いづみを可愛がり一緒にお風呂に入っている。芦川いづみの方も「ママ、ママ!」と慕っている。しかしこの二人、映画とは言えどう見ても姉妹にしか見えない笑

結局、青年医師の葉山良二は、母親の月丘夢路を愛していたのか、娘の芦川いづみを好きだったのか…。母と娘で同じ人を好きになるという悲劇。会社経営に失敗した父が失踪したとは言え、芦川いづみにとっては大好きな実の父であり、この世でただ一人血の繋がった父。その父が失踪か自殺したというのに、継母の月丘夢路が葉山良二と仲良くしているのは、芦川いづみにとっては、「継子」であるという孤独さと、継母が「恋敵」という辛さ両方がありなんとも複雑だ。さらに、兄の柴恭二からは「妹というよりも女性として愛している」と告白されるという…。
結局、兄はとっても優しく良い人だったから、さらなる悲劇は起こらなかったけれど。

月丘夢路は誰にも知られず中絶をするが…、その時身籠っていた子供の父親は、どう考えても葉山良二だろう。
ドイツへ研究留学することになった葉山良二が、「誰にも見送られずに行きたい」と書きつつ、羽田空港からドイツへ出発することを手紙で月丘夢路だけに伝えたということは、やはり月丘夢路のことを愛していたということか。

そして、社長だった父親は生きており、ラストシーンは、彼を愛する事務員新珠三千代と新たな人生を歩もうと決意するところで終幕となっている。

原作は川端康成だが、継母・継子の三角関係あり、不倫あり、血の繋がっていない兄の妹への恋愛があり、愛のない結婚があり、様々な「恋」を詰め込んだようなストーリーだった。
映画も長い割によくまとまっているように思えるが、原作小説はもっと奥行きのある話なのだろう。
タイトルが「東京の人」というのが、なんとも…。「いっぺん東京を離れてみたいの。東京しか知らない私たちには故郷がないのも同じね。田舎のある人が羨ましいわ」「これで東京ともお別れだな」「こうして船から眺めると、東京というめまぐるしい都会にも郷愁のようなものがあるんだね。やはり東京は一度離れてみる(見る)ものかもしれない」このような科白が所々にあったが、つまり、様々な「恋」を描きながら、「東京の人」の「孤独」を語っているのだろう。満たされることのない孤独を。
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