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TOMORROW 明日のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

TOMORROW 明日(1988年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

戦時中の非常時に婚礼をあげる男女、出産を控えた女、捕虜を病死させてしまった兵士、恋人から赤紙がきたことを告げられた少女、出征する兵士の家族の写真を撮る写真館の主人…。長崎で懸命に生きる人々の頭上に原爆が落ちてくる…。

ストーリーはたったのこれだけ。
破壊や流血による戦闘描写も、原爆投下後の悲惨な状況も描かれてはいない。
しかし、胸に突き刺さる作品である。
日本は世界唯一の被爆国であることを忘れてはいけない。
それを確実に思い知らされる。

本作は黒木和雄監督の戦争3部作の一番初めとなる作品で随一の傑作。
井上光晴の原作小説をもとに、長崎のある結婚式に参加した人々のほぼ24時間を個性派キャストの名演で淡々と描く。

原爆投下という結末は分かっている。
分かっているからこそ、「早く逃げてほしい」、「生き延びてほしい」と人物たちに願ってしまう。
それが、ラストの原爆投下で全てが消え去ってしまう。
その直前に結婚式の集合写真が、現像室で浮き出てくる。
あの人たちにも、それぞれの人生があり、これから幸せが待っていたに違いない。
それが一瞬にして最後に消し飛ぶ…。

「明日」がやってくるのではなく、あまりに唐突に「明日」を奪われるのである。
この衝撃のラストは筆舌に尽くし難い。
「人間は父や母のように霧のごとくに消されてしまってよいのだろうか」という冒頭の字幕の若松小夜子の言葉が重くのし掛かる。

恵まれた私たちの時代に於いて、戦争映画を他人事と見る人、戦闘の暴力に刺激を求める人には、本作は退屈なのかもしれない。

しかし、鑑賞後は今も報道される現実の戦争、または核戦争ならずとも東日本大震災で起こった原発事故など、それらを自分たちに関係するものだと改めてとらえ直すべきだと思い知らされる。

本作のように、いつ人生が奪われるのか分からない。
反核・反戦の感情を、日常の幸福から逆説的に呼び起こす稀有な作品である。
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