あなぐらむ

痴人の愛のあなぐらむのレビュー・感想・評価

痴人の愛(1967年製作の映画)
4.1
大映で三度映画化された谷崎作の一番新しいもので、現代(1967年)に翻案された増村映画になっている。
安田道代のナオミをひたすら楽しめるかどうか。
後の「盲獣」に至る導線の様な作品で、閉塞感と息苦しい様な妄執、肥大化した母への憧憬が束になって襲ってくる恐ろしい映画。

張り巡らされた何とも奔放であけすけな安田道代の写真の洪水、彼女の発散する艶が、観る者を劇中の内田朝雄の様な窃視者に仕立てあげる。育てたつもりが育てられてしまう男に小沢昭一がハマり、もうこれは現代の我々の時間のすぐ側にいる男である。田村正和が純情な青年役なのも印象に残る。

脚本は池田一朗先生。シーンをリフレインさせながら状況が逆転し、変奏していく構成を増村がザックザックと刻んでいく。この頃にはもう狂気を孕んだ愛しか描かれず、なので二人は異様にしか映らない。ノワールの地平。
「いい女は美味くて強い酒。一度飲んだら忘れられない」とは見事な台詞。