マインド亀

老人Zのマインド亀のレビュー・感想・評価

老人Z(1991年製作の映画)
4.0
介護人材不足を三十年以上前に予測していたSFコメディ!

●『AKIRA』『鉄男』が作られた数年後、本作は大友克洋原作、キャラデザ江口寿史、『BLOOD』の北久保弘之監督という布陣で作られた作品。で、メカや金属部品がまるで有機的に肉体と結びつくというサイバネティックな表現が、本作ではホラーというよりコメディタッチとして描かれます。

●で、コメディなのになかなか秀逸なのは、すでにこの時点から三十年先の介護人材不足が予測されていること。この時点で機械やロボによる介護のサポートを予測していたはいたんですが、残念ながら現実の技術革新や世間の認識はずっとずうーっと遅かった。この作品が警鐘していて三十年以上、我が国は何をしておったんだと本作を観て愕然とせざるを得ません。現代の介護現場の状況はさらに深刻で、本作みたいな若くてやる気のある若手の人材が集まる事がまずないでしょうし、ここまでの少子化は流石に予測しなかったのかもしれません。本作の厚生労働省が介護の重要性を認識して解決に向かっていっただけまだマシで、リアルな日本はまだまだ介護の現場を厳しくしていく一方。よりディストピアに近づいているのはどっちかな、と思わざるを得ません。

●本作が素晴らしいのは、やっぱり江口寿史の絵柄を忠実に再現しているところで、介護される男性の理想を絵にしたようなちょいエロティックだけど純真な晴子が可愛いのなんの、彼女が理由もなく献身的におじいちゃんに尽くす姿勢は、流石にリアルではないが羨ましすぎるぞ、という切れ味の良い80分。この短い時間の間に、人間の尊厳や夫婦愛まで盛り込んで、ワクワクするアクションも楽しませてくれる傑作だと思います。この頃のOVA、本当にクオリティー高いんですよね。よく夏休み夕方の『アニメだいすき!』で放映されてたのを観てました!

●自我を得て暴走する介護ベッドという皮肉の効いたアクションが後半の面白さにあるのですが、翌年の『鉄男 II Body Hammer』でも都会の中を戦車に変貌した鉄男が爆走する姿もあるのでそこも共通してますね。
また話として近いのは、10年近くあとの2002年「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の第2話「暴走の証明 TESTATION」で、とある思い出の場所まで暴走する戦車の話がありますが、かなり話の内容は近い。
こういった自我を持ったマシンの暴走というプロットは、何か始祖となる原型があるんでしょうかね?

●あと、皆さんにぜひ知ってほしいのは、本作のエンディング曲、小川美潮さんの『走れ自転車』です。この曲ちょっとチャイナな感じのテクノポップ歌謡で、めちゃくちゃ名曲だと思うんですよね。一度聞くと忘れられない隠れた名曲ですので、ぜひ皆さんお聞きください!
https://youtu.be/IceOKx9_XwA?si=qNyZmWdSQujvCsda
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