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アンドロメダ…のsleepyのレビュー・感想・評価

アンドロメダ…(1971年製作の映画)
4.4
コードネーム「焼灼」 *****



原題:Andromeda Strain, 1971年、米、131分、マイケル・クライトンの「アンドロメダ病原体」が原作。

米南西部の人里離れたスモールタウンに米の人工衛星が落下。アル中の老人と赤ん坊の2人のみが生存。視察に行った回収隊も全滅。どうやら未知の微生物が付着していたようだ。衛星が回収され、砂漠の地下の、ある施設に運び込まれる。この解明と後始末のため、軍と最先端生物学者と医者が集められるが、これらはあらかじめ想定されていたチームとオペレイションだった・・。

見所はたくさんあるが、まず面白さ・怖さはその沈黙・静けさにある。特に前半の全滅した村、ミステリ仕立ての少しずつ解明が進む過程の静謐なスリル。米の、ひいては人類の生存左右される科学的戦いが次々と繰り広げられる。現象の重大さと、極秘裏で粛々と進む密室的国家非常事態との対比にはゾクゾクさせられた。地下の閉ざされた空間であることがスリルを生んでいることは言うまでもない。

架空の「スクープ計画」「ワイルド・ファイア計画」(およびその警報。地球外生物がもたらされた場合、その生物を調査・分析して地球上での伝播を防ぐことを目的とした計画及びその実行機関の名称。緊急事態には施設ごと熱核により消滅させる。Wikiより)、大統領にのみ権限ある「指令7-12」(コードネーム(焼灼))の設定と描き方の妙に唸る(10分から15分あたり)。科学的検証・信憑性はともかく説得力がある。国家・軍が非人間的に描かれていず、また、騒がしく、げんなりさせられる悲愴さ・下手な情緒を盛り込まない点に好感を持った。なお作中に登場する数字「601」は解析不能・未知数の意味。これがあとで効いてくる。

「2001年宇宙の旅」「サイレント・ランニング」「未知との遭遇」「スター・トレック」(79)「ブレード・ランナー」「ブレイン・ストーム」の特撮に携わったダグラス・トランブルの参加も嬉しい。ただし上記作品の特撮と大きく異なり、おそらく手がけたのは各種モニター画面、アンドロメダ球株の変化(スリット・スキャン?)、基地の下部の描写部分等と思われ、地味だが効果的だ。音楽の少なさも特徴で、ジャズ・ミュージシャン、ギル・メレの無機質でアブストラクトな機械音みたいな音楽が無慈悲な恐怖を煽る。そして(一部の鮮やかな赤と黄を除き)冷たい色調の撮影はリチャード・H・クライン(「絞殺魔」「スター・トレック」「白いドレスの女」等)。OPクレジットも良い。

アーサー・ヒル(「動く標的」「0の決死圏」「キラー・エリート」)はじめ、地味だが実力ある俳優が期用され、みなリアリティがあり印象的に描かれている。一癖ある皮肉屋の女性科学者ルース役のケイト・リードがうまく、皆のキャラを伝えるセリフも良い。

ワイズ監督(「地球の静止する日」「砲艦サンパブロ」「スター・トレック」(劇場版)等)は外連味なく、いつも実直に撮る監督。作風に1本筋が通っていて、あらゆるショットを面白くしようとする工夫がある。そして特撮の取り込みがいつも自然だ。具体的には異なるが、ジョージ・C・スコット監督・主演の「激怒」やアルドリッチの「合衆国最後の日」をどことなく思わせる。

これまでの、そして現在の映画と異なる地球外生命体。見えず、もの言わない敵意なき敵の恐怖。見る者の知的好奇心を掻きたて、終盤にかけて、息を詰めるほどのタイム・リミットサスペンスも盛り込み、目を離す暇もない。菌株の決着はやや駆け足で弱いといえば弱いが、この手の作品に係る今の作り手が手本とすべき演出と脚本・編集の生々しさ。せわしなくて現実的恐怖に乏しい「アウトブレイク」にない凄み。

★オリジナルデータ:
Andromeda Strain, 1971,US, 131min.Universal Pictures, オリジナルアスペクト比(もちろん劇場公開時比を指す) 2.35:1 (70mmは2.20:1 ), Color (Technicolor), Panavision (anamorphic) , Mono.(70mmは6track), 35mm film
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