Omizu

歌麿をめぐる五人の女のOmizuのレビュー・感想・評価

歌麿をめぐる五人の女(1946年製作の映画)
3.3
【1946年キネマ旬報日本映画ベストテン 第7位】
溝口健二が田中絹代を迎えて撮った戦後第二作。邦枝完二の『歌麿をめぐる女達』を原作としている。

溝口スランプ期の作品とされる。悪くはないのだが、確かに溝口のスタイルは鳴りを潜め、よくある人情時代劇以上でも以下でもない。

五人の女たち、という割に田中絹代以外はあまり見せ場がない。雪江はまだいい方、お蘭とおるいに至っては歌麿とあまり関係がない。

横移動のカメラにはかろうじて溝口成分は感じたが、語り口は普通。良くも悪くも「これが溝口作品?」という印象。もちろん人情時代劇としては普通におもしろいのだけど。

田中絹代はいつもながら素晴らしい。溝口も明らかに田中絹代の描写だけ力が入っている。ラストの女の情念を体現した田中絹代の演技、それを余すところなく捉えた演出は素晴らしかった。

終わり方がよかった。歌麿は女たちとの交流によって制作意欲を取り戻す。どんなことがあっても描きたい、という芸術家の性というものを感じるラストでとてもよかった。

人物描写が溝口にしては浅いのが残念。五人の女たちと男たち、その関係性をもう少し丁寧に描いてほしかった。溝口らしくはないが、普通に面白い作品だとは思う。
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